江戸時代後期の「東照宮縁起絵巻」の制作過程においては、当時の学問知識が反映されるように、絵の内容が改変された点が指摘できる。そこで、今年度は、江戸時代後期の学問興隆の高まりを示す絵画制作の他の例を調査・研究した。 特に、京都国立博物館、九州国立博物館で実施した18世紀前半期に制作された草花図の調査は、これまで描かれなかったような多くの種類、珍しい種類が多数描きこまれており、上層階級における学問の興隆が、絵画制作を牽引した例として重要である。こうした江戸時代全体の絵画制作の流れの中に「東照宮縁起絵巻」もあり、たとえ同絵巻のように確たる粉本が存在していたとしても、絵の一部が改変されるなど、その傾向を受けていたことが指摘できる。従来の研究では「東照宮縁起絵巻」の改変は、あまり注目されることがなかったが、同時代の学問興隆の高まりにおける変化という視点で捉えることで、江戸時代の絵画史に改めて位置づけることができるのではないか、という新たな視点を提示できたことが今年度の成果である。
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