新型コロナウィルスの感染拡大により、2019年度3月に予定していた調査出張を実施できない可能性があったため、2020度まで事業を延長した。しかし、受け入れ先機関との相談、調整により、2019年度内にほぼ予定通り実施することができたため、結果的に2020年度使用額として確保していた金額は少額となり、資料購入に充てた。2020年度は、近世武家に好まれた画題の研究の一環として、2019年度に作品調査を行った今治市河野美術館の所蔵品「源平合戦図屏風」の研究を進展させた。成果として、2020年10月に、リーフレット「今治市河野美術館所蔵 源平合戦図屏風を読む」(龍澤彩・鈴木彰共著)を刊行した。所蔵館でも広く一般に配布できるよう納入し、研究成果を社会に還元する取り組みを行うことができた。また、論文「今治市立河野美術館蔵「源平合戦図屏風」について」を執筆、2021年度中に勉誠社より刊行される論集『中世から戦国の合戦図屏風をめぐって(仮称)』に掲載される予定である。また、中近世物語絵の展開に関しては、2021年3月6日に「源氏絵の表と裏 扇面画と冊子表紙絵をめぐって」と題した講演(特別展「源氏物語の絵画―伝土佐光信『源氏系図』をめぐって」記念講演会<招待講演>)を、中之島香雪美術館にて行う機会を得た。同講演では、本研究課題で2018年に調査を行った、ニューヨークパブリックライブラリー所蔵の「源氏物語 賢木」および「柏木」冊子表紙絵も取りあげ、天理大学付属図書館所蔵「絵合」、出光美術館所蔵「藤裏葉」、中之島香雪美術館所蔵「源氏系図」が現存作例として知られる一連の冊子の、欠本を補う目的で制作された可能性についてもふれた。
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