密教の北斗法で懸用される星曼荼羅のうち円形式の作例について、その特徴をホロスコープ占星術との関わりから捉え直そうとするのが本研究の主題である。特に、配置の意味が不明な九曜を取り上げ、配置構成の原理を考察することが研究の中心である。この研究は、方形を真言系、円形を天台系として単純に二分する従来の分類に対して、その分類の正当性を検証することに繋がり、また、その分類の正統性にかかわらず、両者の差異の本質が明確化されることを期待するものでもある。 令和4年度は、令和3年度に引き続き、日食あるいは月食を引き起こすと信じられてきた二隠星、すなわち蘿コウ(目偏+侯)と計都について、重点的に考察した。九曜はそもそも日月五惑星の七曜に二隠星を加えた九つの星辰を差すが、七曜が実際の天体であるのに対して、二隠星は現実には見えない架空の天体である。それらは太陽と月を食する天空の魔物ドラゴンの頭と尾に相当するとの解釈が密教経典の『七曜攘災決』に記されている。これは、日食と月食が黄道と白道の交点で起こることを反映すると考えられる。また、二隠星のうち蘿コウ(目偏+侯)は食星であるが、計都は彗星であるとの説が密教経典の『大日経疏』に記されている。前者の公転周期を『七曜攘災決』が十八年とするのは、黄道と白道との交点の現実の移動を反映すると解釈されるが、後者の公転周期を『七曜攘災決』が九年とするのは、月の近日点あるいは遠日点との二つの解釈の可能性を示唆するものの、最終的な結論には至らなかった。 また、七曜の配置については、多くの経典が異なった列次を記しており、それらは日月火水木金土、日月木火土金水、不定と三大別されながら、その系統を明示できていない。円形式の場合、九曜配置の差異はホロスコープ占星術の反映との解釈が想定されるため、配置の意味は、現在申請中の科研(挑戦的研究)の採否を待って、引き続き考察する。
|