本研究は、中国清代において、皇帝が推進した書文化政策により伝統的書文化がいかなる展開・変容を遂げたのか、その一端を明らかにしたものである。清朝最盛期を現出した乾隆帝は、祖父・康熙帝によって始められた書文化政策を引き継ぎ、さらに大規模に発展させた。その前提となる書蹟の蒐集活動により、民間において法書となる名蹟を払底させ、いわば「真空状態」を生み出した。そして、『偽絳帖』や「清華斎法帖店」による刊行事業に端的に見られるように、偽造されたホンモノが盛んに生産され流通したのである。このような法帖における偽による真の駆逐、偽の真への昇格という転倒現象は、のちの碑学勃興の要因のひとつとして位置づけられる。
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