天保の改革を風刺したものだとしての噂が立って大ヒットした1843年の歌川国芳画「源頼光公館土蜘作妖怪図」以後、徳川幕府の出版統制が効力を有していた明治初頭にいたるまでの間に出版された錦絵の風刺画の画像および書誌情報を、美術史や歴史学の画集、展覧会図録、美術館や博物館などの所蔵機関のデータベースなどから可能な限り幅広く収集した。さらに、それらの風刺画としての読み解きの手掛かりとなるコードや主題傾向をもとに、以下のカテゴリーに分類した。 1)武者絵など過去の歴史的出来事に偽装したもの。2)異類合戦に事寄せたもの。3)市井風俗画を装ったもの。4)子供あそびに仮託したもの。5)鳥観図(一覧図)に戊辰戦争の戦場を重ねたもの。6)百鬼夜行図などの妖怪画に仮託したもの。 そうした分類をもとに、風刺画作成の手法に、それまでの武者絵において幕府の統制を回避する手法が応用されていることを明らかにし、さらにこれまで風刺画と認識されていなかった錦絵をあらたに風刺画として抽出しうる鍵となる可能性を見出しえた。とくに百鬼夜行図など江戸後期の妖怪図の流行を背景に、それらの図像が風刺画と融合していく過程を明らかにした。成果の一部は、国立歴史民俗博物館の特集展示「錦絵in 1868」(2018年度)や「もののけの夏―江戸文化に見る幽霊・妖怪」の展示内容に反映させることで社会還元を果たしえた。
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