研究課題
本研究では、ウズベキスタン南部のファヤズテパ仏教遺跡出土壁画を中心に、バクトリア地域の壁画の研究をおこなってきた。2019年度中に、ファヤズテパ遺跡出土壁画の研究成果をまとめ、報告書として刊行する予定だったが、現地での最終調査が計画より遅れたために、年度内に刊行することができなかった。そのため、研究期間を一年延長し、2020年度に報告書の執筆、編集、刊行を行った。本報告書の編集は、ウズベキスタン科学アカデミー国立考古学研究センター(旧考古学研究所)、イスタンブール大学の研究者と共同で行い、奈良文化財研究所の研究者の協力を得た。報告書の内容は、ファヤズテパ遺跡における壁画の発見の経緯、先行研究の成果と問題点、新たに公開することのできた壁画の概要、今回行った保存修復作業、壁画片の自然科学的調査、壁画の図像研究からなる。巻末図版として、昨年度までに保存修復作業が完了した壁画断片の鮮明な写真を収める。本研究の成果として、第一に挙げられるのは、ファヤズテパ遺跡出土壁画の制作年代に関する先行研究を検証した点にある。クシャーン朝期とする従来の説とポスト・クシャーン朝期とする新しい説があり、本研究開始当初、筆者はポスト・クシャーン朝期である新しい説を支持していた。しかし、国立考古学センターと共同で、未公開の壁画の保存修復作業と研究を進める過程で、壁画に描かれた仏塔の上部構造の形状やその荘厳方法がクシャーン朝期の特徴を持つことが認められた。また、壁画に添えられたギリシア文字バクトリア語銘文を専門家に見ていただいたところ、その書体は、おおよそクシャーン朝期の特徴を示すということだった。したがって、ファヤズテパ遺跡出土壁画の制作時期はクシャーン朝期であると考える。ただし、ポスト・クシャーン朝期を支持する新しい説の根拠をすべて検証することはできていない。今後の課題としたい。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
D. G. Tor and Minoru Inaba eds., Iran and Central Asia in the First Millenium: Continuity and Change from the Pre-Islamic to the Islamic Period
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Живопись Афрасиаба: проблемы изучения, интерпретации и сохранения