本課題は、19世紀末から20世紀初頭のロシアにおける、これまであまり研究の進んでいなかった中小規模の音楽活動について調査することにより、商業主義発展の過程で劇場文化が人々の娯楽生活に果たした役割に着目し、ソ連時代を経て、今日のロシア芸術文化の中にどのように定着したかを考察する。最近はロシアでも革命前の劇場文化に注目が集まっており、失われた演目の復活や作品の情報を提供できた。また、当時の西欧と東洋の芸術活動における交流の一端を明らかにすることが出来た。 当初は帝室劇場と私立マーモントフ・オペラ団以外の中小の音楽劇場の上演実態を調査するつもりだったが、結果として、帝室劇場のオペラとバレエのレパートリーと上演回数の調査が進展し、アルセニー・コレシチェンコというロシア後期ロマン派の忘れられた作曲家、フセヴォロド・ザデラツキーというロマノフ家と関わりがあるが、それゆえ革命後に迫害され、抹消された作曲家の作品の調査と当時の受容に関する研究が、一定の進捗を見せた。 2019年度はこれらの成果を、東京大学、国立バフルーシン演劇中央博物館(モスクワ)、国立サンクトペテルブルク音楽演劇芸術博物館で開催された国際学会で報告した。 また、英国の著名ダンス・ジャーナリストNadine Meisner氏の講演会、ザデラツキーの知らざれる楽曲を演奏するコンサートを企画・開催、単著『帝室劇場とバレエ・リュス』を著す等して、一般にも成果を還元した。本研究は、芸術文化を軸としたロシア・日本の二国間の友好に大いに貢献すると考えられる。
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