研究課題/領域番号 |
17K02352
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
麻生 弥希 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (90401504)
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研究分担者 |
布山 浩司 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, その他 (20743644)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | デジタルとアナログ / 文化財復元手法 |
研究実績の概要 |
文化財の記録において、高精細デジタルデータを記録する技術は飛躍的に進んでいるが、出力の技術はオリジナルの質感や繊細なディテールを再現するには至っていない。本研究ではこれまでは個別に研究開発が進んできたデジタルとアナログの技術を柔軟に融合させることでよりオリジナルに近い復元手法の開発に取り組んでいる。社会情勢や気候の変動により文化財が破壊される機会が増加する現代社会において、高精細デジタルデータとオリジナルに近い素材でのアウトプットの技術開発をセットで行うことで新しい継承のあり方を模索する。 平成30年度に取り組んだ手法は以下の内容である。1:絵巻などの和紙に直接描かれた作品を印刷する際の下地開発を行った。紙の地を活かして描かれた作品を印刷する際に、薄美濃紙などの手漉きの和紙に直接印刷すると十分なインクの発色が得られない。極薄い白色顔料を塗布することでこの問題は解消されるが、紙の地を損なわない濃度やムラなく安定して顔料を塗布するための技術的な手法の確立が必要であった。今年度は顔料や膠、水分量の数値化を行い、東洋絵画の唐刷毛の技法を取り入れることで安定的に下地を作成することが可能になった。2:金箔の上に高精細印刷を行う手法の開発を行った。金箔に直接印刷するとインクを弾いてしまったり、インクが乾かずに定着が悪いという問題が生じる。金箔の上にインクを保持する層と印刷面をコーテイングする層構造を作成することでこの問題を解決した。現在は試作段階であり、実際の作品への応用には至っていない。3:本研究分担者の布山浩司氏によって岡山市立オリエント美術館所蔵有翼鷲頭精霊像浮彫の高精細3D計測と工藤湖太郎氏(東京藝術大学COI拠点特任研究員)によって高精細デジタル撮影を行った。現在はデータを取得した段階であるが近年破壊が進むアッシリア美術において貴重なデジタルデータとして今後の活用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文化財の複製はこれまではオリジナルには劣るものや贋作のようなイメージがあり、なかなか社会に受け入れられにくい印象があった。西洋においては特に複製に対する評価は低いが、破壊された文化財を復元するというスタンスでは高く評価される傾向にある。しかし、社会情勢や気候の変動で文化財が破壊される機会は確実に増加傾向にある。破壊の被害に遭遇する以前から文化財の高精細デジタルデータを取得し、アウトプットの手法とセットにした研究開発は潜在的な時代のニーズに叶うものと考える。本研究では文化財の復元研究の現場で役立つ基礎的な手法の開発を行い、実際の制作や展示などに活用されていることからおおむね順調と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では今後以下の3つの観点から研究開発を行う予定である。 1:過去に記録され、現在オリジナルが失われた作品のデータ活用に関する研究 2:現在の最新技術でデータを記録する手法とアウトプットに関する研究 3:失われつつある伝統技法の記録 3に着手する理由は本研究を行うにあたり、実際の伝統技法が役立つケースが多い半面、伝統技法が継承されにくい状況を目の当たりにする機会も多くあった。表面的な作品の記録だけでなく現在記録可能な伝統技法に関しては積極的継承する必要を感じ着手することにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度はこれまで行ってきた研究の改良や数値化などを行ったため、当初の予定より予算がかからなかった。新たに調査を行った作品に関しては今後制作をする予定であり次年度使用額が生じた。
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