研究課題/領域番号 |
17K02357
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
猪瀬 昌延 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (40597340)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 触覚的教育 / 造形活動 |
研究実績の概要 |
29年度は、美術表現で用いられる粘土に注目し、美術表現の過程における触覚の教育的意義を明らかにすることを目的としたワークショップを8月、9月の二回にわたって本学実習室及び県内公立小学校にて行った。対象は、小学生及びその保護者とし、親子それぞれが可塑材(信楽土)を用いた制作体験を行った。一定の条件のもと、可塑材の特性を生かした造形活動を実践し、行為そのものを作品(表現された痕跡)から読み取り、検討を行った。その結果、触覚的操作の読み取りに関していくつかの改良すべき課題を得た。一つ目は、5色のカラー粘土を用いたことから、色彩の効果によって表現活動が観念的表現に偏りやすく、対象年齢が高いほど顕著であること。二つ目は、型起こしの技法を採用したことから平面的イメージが先行し、可塑材の特性を充分に発揮することが難しかったことがあげられる。これらの課題を解決するためには、素材からのイメージを陰影の効果によって享受し、造形活動を行う中で自らがかたちに意味を持たせ、より自由な造形活動に展開することが期待できることから、素材の厳選と対象に合った大きさの検討が必要である。以上の検討を行い30年度ワークショップの企画を進めている。 また、11月県内盲学校小学部での彫刻鑑賞授業に参画し、触覚による造形表現の鑑賞を通してその教育的意義の考察を行った。対象児童は11名。全盲、弱視、他の障がいの重複など障がいの程度はそれぞれであった。その中で彫刻作品の鑑賞において「解る」「知る」「感じる」の三つ点知見を得ることができた。この知見に関しては、30年度以降の研究に活かされてくると考えられる。 当初研究計画より先行して、我が国の伝統工芸でもある張り子に関しての調査を進めると同時に、紙を用いた造形として紙塑への視野を広げ、今日的素材の調査と研究を行うことができている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初研究計画より先行して、我が国の伝統工芸でもある張り子に関しての調査を進めると同時に、紙を用いた造形として紙塑への視野を広げ、今日的素材の調査と研究を行うことができている。
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今後の研究の推進方策 |
30年度は、29年度に得られた課題の検討を活かしたワークショップを企画し実施する。主な内容は、制作者の内的イメージの表出過程として制作行為を捉え、行為そのものを形象化された作品として検証を行う。また、制作行為を制作者と作られつつある作品との対話と捉え、表現活動を能動的自己認識活動へと繋げていく事を目的とする。素材は粘土を用いて、塑造表現の実践の中から触覚的教育の有用性を導き出す。 30年度の中心的研究は、「会津赤べこ」、「高崎だるま」、「琉球張り子」などの様に我が国でも古くから作られている張り子について調査をさらに進めるとともに、伝統的張り子で使用される素材を調査し、現在的素材での応用を試みる。民藝として古くから作られる多くの張り子の場合、木型を用いて大量に生産されることが一般的であるが、本研究においては可塑材を用いた間接法により造形表現を行うため、塑造表現についても考察を行う。また、張り子で使用する紙材の技法的考察も並行して行う。 本件研究においては、可塑剤を用いた造形における教育的意義を明らかにするとともに、伝統技法の張り子と同じく伝統的技法の脱乾漆技法の融合を目的としていることから、30年度内に両技法の共通点と差異を明らかにすることを目指す。
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