最終年度の研究計画は感染症拡大の為に児童生徒に向けたワークショップの開催が困難となったが、「触覚の型取りワークショップ」は、素材を石膏と限定した上で大学生を対象として行う事が出来た。造形行為をする者にとっても鑑賞する者にとっても、良い形や優れた形を理解し言語化することは困難である。そこでイギリスの彫刻家ヘンリー・ムア(1898-1986)が明言する「充実したフォルム」をキーワードに、扱う素材と優れた形体の関係を取り上げるとともに、制作行為としての触覚的働きかけが造形作品として形象化されることで視覚的対象となり得た際に現れるフォルムの成り立ちを、行為と鑑賞の視点で考察を行った。 本研究で主軸としている可塑材を用いた塑造及び脱活乾漆技法と同じく、古典技法の一つである張り子技法の歴史的変遷をたどり、再度融合することを目指した。(張り子技法は紙類が広く一般に流通した江戸期に乾漆技法応用として、更に量産を目的として考案されたとものとされている)天平時代に盛んに造像された脱活乾漆がその後木彫の反映と共に衰退した要因を明らかにするとともに戦中戦後においてヨーロッパ留学経験のある山本豊市(1899-1987)によって彫刻表現の手法として考案され、現在も主に行われている西洋塑造技法の応用である石膏雌型を用いた脱乾漆の間接技法への移行の有用性と古典技法の脱活乾漆で行われていた直接法の差異を実制作を基に検証した。 本研究の目的である触覚的教育の実践研究では、行為者がその行為を素材を介して直接的に享受する過程が重要である。その為に可塑材を用いて直接的に完成へと進行する造形においては、高度な技術的手法を介在することなく、制作過程において行為者自らが行為の反省的検証を行う事が可能であり同時に量産を目的としていない芸術表現においても我が国の伝統文化理解得る事が期待できるものと考えれる。
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