研究課題/領域番号 |
17K02359
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
北原 恵 大阪大学, 文学研究科, 教授 (30340904)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 戦争画 / ジェンダー / ポストコロニアル / 女性美術家 / 表象 / 軍事主義 / 記憶 / アジア・太平洋戦争 |
研究実績の概要 |
本プロジェクトの目的は、アジア太平洋地域の戦争画研究とそれに関する作品を調査することによって、軍事主義やポストコロニアルの視点から日本の「戦争画」研究そのものを捉え直すことにある。2020年度はコロナ禍のため出張による調査や対面での研究交流ができなかったが、以下の調査・発表・研究会・出版を行なった。 【調査】プロレタリア美術史の調査--①新井光子(八島光)研究。日本のプロレタリア美術運動に参加し、ファシズム政権の弾圧から逃れるために渡米し、生涯を米国で暮らした女性画家、新井光子について、文献資料を発掘調査し、生涯の前半期を詳細にたどった。②10月18日「A Red Hat 赤い帽子」展調査、写真家・高橋健太郎へのインタビュー。③生活図画事件調査 【公開研究会】2020年10月23日、研究会「戦争/革命表象における女性イメージ」を開催(於キャンパスプラザ京都、及びZoom。関西ジェンダー史カフェとの共催)--前田しほ氏(島根大学准教授)による、旧ソ連軍における寓意的女性像の実態と比較に関する発表。 【発表・出版】①11月21日、プロレタリア美術や1930-50年代の極東地域での美術交流を調査する研究会を立ち上げ、第1回目に新井光子について発表した(Zoom開催)。②北米のアジア系ディアスポラの視覚文化に関する雑誌ADVCA(vol.6, Brill, 2020夏)に、谷口富美枝に関する論文を英文で掲載(査読有) ③生活図画事件と高橋健太郎写真展について雑誌で紹介(『ピープルズ・プラン』90号、2020年11月) ④プロレタリア運動の女性美術家・新井光子(八島光)について、日本語で初めてとなる研究論文を発表(『待兼山論叢』54号、大阪大学文学研究科、2021年3月) ⑤最終講義として「戦時下を生きた3人の女性画家」を発表、YouTubeで公開。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画が遅れたのは、新型コロナの影響により調査出張ができなかったことが大きい。 そのため文献資料調査を主とする課題に切り替え、プロレタリア美術運動における女性美術家の新井光子(八島光)の調査を行なった。戦前の新井光子に関する新たな資料を多数発掘して論文にまとめたことは成果として挙げられる。前年より取り組んでいた北米の学術雑誌『Asian Diasporic Visual Cultures and the Americas』への投稿・出版は、予定通り掲載された。年度末には最終講義の形ではあったが、これまで調査を続けてきた戦時期の3人の女性画家(長谷川春子・谷口富美枝・新井光子)について比較分析を深め、総括的な発表を行い、YouTubeで広く公開したことも次につながる成果である。
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今後の研究の推進方策 |
2021度は、2020年度に新たなテーマとして浮上した、プロレタリア美術における女性画家の活動やジェンダーの視点からの検証をさらに推し進め、最終年度としてこれまでの成果をまとめる予定である。そのための公開の研究会を開催する。 また、すでに代表者が持つホームページ(Art Activism: 視覚文化/ジェンダー研究 http://www.genderart.jp/)を利用して、資料情報の公開を行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のために、予定していた国内外の出張が取りやめとなり、実地調査ができなくなっため、計画の大幅な変更を余儀なくされた。コロナによって2021年度も出張がかなり制限されそうであるが、その制約も織り込んだ計画を柔軟に立てていきたい。最終年度の成果としては、2020年度に行った研究会「戦争/革命表象における女性イメージ」(関西ジェンダー史カフェとの共催)のまとめを行ない、ニュースレターに掲載する。さらに、戦時中の戦争画における天皇表象について、これまでの論考をまとめ、他の天皇表象の拙論とともに出版の準備をする予定である。また、それらの成果の一部は、すでにある代表者のホームページで公開する。その他、オンラインのテレビ会議システムを有効に活用して、関係する研究者やアーティストと交流をはかりたい。
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