研究課題/領域番号 |
17K02361
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
山本 和史 岡山大学, 教育学研究科, 教授 (40294392)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 繊維方向での伸長 / 収縮時の割れ / 冷め割れ / グリーンウッドワーク / 里山クラフト研究会 / 樹種判定 / 芯持ちロクロ加工 |
研究実績の概要 |
初年度である平成29年では、Ⅲ期に分けて計画したが、実績については内容項目で述べる。 ■環境整備について:個人で行ってきた加工環境と同等の設備(木工旋盤PowerMatic3520B)及び周辺機器・刃物類を大学内に設置。加工材の乾燥による形状変化と木材含水率を計測するため低温乾燥機や計測機器を整備。データ収集と雑木の樹種判定に関し、岡山県農林水産総合センター森林研究所の協力関係を作った。 後述の実技研修を元に「削りウマ」「シェイビング・ポニー」を作成し、学生と共に匙、調理ヘラ等の試作を行った。 ■生木造形加工のデータ収集について:今年度入手できた針葉樹3種、広葉樹14種をもとに椀形状のサンプルを作成し乾燥による形状変化を確認。芯持ちロクロ加工において、厚み(3~5段階)と見込み角(3~5段階)を変えながら検証し、繊維方向での伸長が起きていること、芯割れが起きやすい樹種においても、厚8mm以下の場合、収縮時の割れがほとんど起こらないことを確認した。これは竹節状の形状でも同様。底部が厚い場合割れの発生が多いことや、高温完全乾燥に耐えても、冷め割れが発生する事も分かった。 ■造形展開について:匙屋さかい(木のスプーン作家)、牛窓岐阜県森林文化アカデミー(匙フェイス)、NPO法人グリーンウッドワーク協会(子ども椅子)の3ワークショップで研修。■筆者が栗と欅の生丸太から制作した作品(壺)が第91回「国展」国画会、第68回岡山県美術展覧会で入選し、発表展示された。 ■12名の木工作家を「里山クラフト研究会」に招致し、研究会を実施。参加者24名の内、半数が一般者であり、関心の高さを実感した。研究会では岐阜県森林文化アカデミーにおける先行研究の発表と筆者の成果を報告し、3年度の研究成果を元に展覧会を開催することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第Ⅰ期は収集できた試験用材の樹種が限られた点、また想定外にテストピースの割れが起きず、データ収集方法(ターニング検体の形状、条件)の模索を行う。設備的遅延もありロクロ成形の指導が停滞したため、他の生木加工を調査すると共に、外部研修を通して指導方法と教育環境を研究。 第Ⅱ期には基本的環境条件を整え、半球状を基本に、厚みを変えながら検体を作成し、割れの出る条件を探っている。また筆者は複数のパーツを継いで造形の展開を図ってきた。この手法を確かにするため、芯持ち材を竹節状に削り、形状変化を記録している。その確実性が見いだせれば、より形態は自由になり、素材としても可能性が広がるであろう。予定していたマイクロ波の乾燥と、PEG類の含浸試験は実験数とデータの確実性を出しにくく検証に至っていない。しかし、素材を生かした造形表現としては制約が多い事が分かってきた。現在は加工プロセスと素材感を生かすべく、ガラス塗料による仕上げ方法を検証中である。 並行して工芸品としての造形を行い、外部発表した。また学部生と共に用具の整備・改良をしつつ、カトラリー類を中心に生木によるクラフトを実践。院生とは「木材ノ工藝的利用」から「櫛」「漆器:板物、曲物、丸物」について精読し明治期における利用材と産業実態を調査した。外部へ雑木サンプルの樹種判別を依頼(9月)、生木加工の研修へ参加(10月) 第Ⅲ期では学生達の試作品を「卒業制作展」で発表し、観覧者からの強い関心を感じることが出来た。「里山クラフト研究会」へ参加した11名の工芸家が継続して制作研究に参加して頂けることとなり、来年度研修会を持つことが相談された。また、発表があった先行研究データ(岐阜県森林文化アカデミー卒業生)を、筆者の研究内でさらに検証を深めることが認められた。また3月中、少量の雑木収集を行いメンバーへ提供した。
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今後の研究の推進方策 |
■第Ⅳ期(4-7月)①旋盤を追加しターニング指導を充実させる。試験椀のサンプル作成を兼ね、学生への指導レシピを模索。経験者に対する作品制作指導と合わせ、技能的なクラス設定を行い、2年後「WoodTurning手引き書」をまとめることを目標とする。②テスト椀の形状変化を視覚化:木理状態や樹種による形状変化の特徴を明らかにするため、3Dスキャンによる計測を元に、立体的な視覚化を行う。※このデータ・ログと、データ加工は年間通じて行い、樹種と素材状態の知見を蓄積する。 ■第Ⅴ期(8-11月)①里山クラフト研究会:作家の工房訪問や研修会を行い、収集した雑木の相互提供と試作を進める。②造形の展開:ターニングの継ぎ加工により、多様な形態の成立を試す。その際、PEG等による形状固定の可能性を検証する。 ■第Ⅵ期(12-3月)①教材としての生木造形:世界の生木から作られる民芸品(カトラリー類以外)を学生と共に調査し、試作することで可能性を検証。②里山クラフト研究会:生木によるターニングの実技講習会を実施。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗材が予定より安価に済んだため。
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