研究課題/領域番号 |
17K02364
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
小原 浄二 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 教授 (80274348)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アーティキュレーション / 発声メカニズム / バロック様式 / ドイツ語理解 / 受容 / 表現力向上 |
研究実績の概要 |
29年度は合唱参加者の音楽経験及びパートのバランスを考慮の上、BWV225とBWV182を取り上げて研究を進めることとした。 これらの曲目を実践するにあたり、言葉の持つ色彩感の表出の仕方、旋律を美しく保った上でのアーティキュレーションの考え方、また拍節感及び和声感から導かれるパートの響きと役割について特に焦点を当て、練習プログラムを検討、参加者にこれらを提示した上で器楽奏者との合わせを含めて約60回の研究会において反復的に試行した。これらのプログラムを年単位の十分な時間をかけ繰り返すことは、ドイツ語における言葉のニュアンスを特徴づけるための色彩の表出、それを実現するための発声メカニズムの理解へと繋がった。 曲目及び器楽共演者の選定の過程において、本来30年度に計画していたピリオド楽器を使用した演奏形態を本年度に実践することとした。このことは結果的に合唱参加者がバロック時代の歌唱法や様式感について早い段階で知識を深めることに繋がり、本研究全体の進捗の効率を高めたと言える。 共演者の日程の都合により、公開レッスン及びワークショップを開催に至ることはできなかったが、代わりとして行った公開リハーサルでは、演奏家が高い技術、表現によって芸術性を高める過程を間近にすることで、出席者は様々な技術知識を得ることのみならず、アンサンブルの重要性について改めて理解を深めることができた。また、合唱参加者を対象にした、共演者によるレクチャーでは、古楽器の特徴や歴史的背景、演奏論などについて学ぶことができた。 ここまでの活動を通じて、本研究の全体の目的である、アマチュア合唱団がバッハ演奏に関して曲目をどのように受容していくかの理解、そのために必要な表現力向上についての具体例を示すことができたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度は当初の計画のとおり、バッハ演奏の受容についての再検証を、多くの録音が残るマタイ受難曲を中心に行い本研究の方向付けを経た上で、練習プログラムを作成検討、年間約60回の研究会、演奏会における成果発表を行う中で、微力ではあるがアマチュア合唱団のバッハ演奏における表現力向上に貢献できたと考えている。 バッハ・コレギウム・ジャパンや東京バッハカンタータアンサンブルなど、国内外で活動を行う器楽奏者、独唱者とは本研究の趣旨を説明の上で、現代におけるバッハ演奏のあり方について、テンポ、アーティキュレーション、ニュアンスなどの音楽の方向性について意見交換を重ねてきた。特に歌における言葉の抑揚と器楽との関わりについてお互いの理解を深め演奏を実践できたことは大変有意義であったと感じている。 曲目の選定過程において、30年度に行う予定であったピリオド楽器を用いた現代の古楽スタイルの追求を29年度に前倒しした点は、実績の概要でも触れた通り、むしろ本研究全体の進捗の効率を高めたと言える。 次年度の新たな参加者の層の拡大を狙った、一般市民向けの公開レッスン及びワークショップは今回は日程上の都合で実現は出来なかったが、それに代わりリハーサルを公開とし、更に器楽奏者によるレクチャーを行うことで、参加者はこの分野についての理解を深めることができたと考えている。 以上、すべてが当初の計画の通りとは言えないが、予定に対して概ね80%程度研究を進めることが出来ていると感じている。
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今後の研究の推進方策 |
29年度の実績を踏まえた上で、引き続き当初の計画案を軸に研究を進める予定である。前年度は歌における言葉の抑揚と器楽との関わりについて理解を深めたが、その延長として弦楽器または管楽器、あるいは双方が合唱の各パートと重なるスタイルであるBWV4,BWV64,BWV121を選択し、より両者の関係性について、演奏の実践を通して研究を進めたいと考えている。 尚、以下の点については当初計画に対して若干修正を加えた上での活動を考えている。 一点目は、前倒ししたピリオド楽器での演奏スタイルの理解をもとに、30年度は現代楽器を用いた器楽編成でのバッハの声楽曲研究を行う予定である。楽器がモダンとなることで演奏スタイルに変化が伴うのは自然のことと言えるが、その中に29年度に行った古楽スタイルのアーティキュレーションやニュアンスを絶妙な形で取り入れる方策を見出したい。 二点目は、新たな参加者の開拓について、29年度の参加者を母体とした30年度の研究会を原則公開とし、バッハの声楽曲についての親しみと理解を獲得することで新たな参加者の拡大を狙いたい。 三点目は、非常に幅広い範囲の層を対象に活動の成果を発表し意見聴取を行うことで2年間の活動の検証を行うために、東京での演奏会を計画段階では予定していたが、これについては現時点で参加者の日程調整の関係で確定していない。実現が困難な場合のために、中四国における音楽交流など、現在より広い範囲での活動の実現を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
合唱参加者の音楽経験及びパートのバランスへの配慮による曲目の変更、及びピリオド楽器を使用することによる新たな器楽編成に伴い、当初の予定に対して人件費・謝金及び旅費、物品費の調整、費目間流用を行った結果、次年度使用額が生じることとなった。 これについて本研究の遂行に大きく関わる楽器のメンテナンス、具体的にはチェンバロの総メンテナンスに使用する予定である。充てられる金額は次年度使用額と概ね同額となる予定である。
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