研究課題/領域番号 |
17K02367
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研究機関 | 金沢美術工芸大学 |
研究代表者 |
高橋 治希 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 准教授 (10464554)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | インスタレーション / 庭園 / 園林 / 陶磁器 / 芸術祭 / 中国 |
研究実績の概要 |
本研究は明治期の高度な陶磁器の造形技術の一端を解明しながら、日中の園林における人生観と直結した空間思想を読み解き、その成果を東洋的インスタレーションの作品として昇華することを目的としているが、その造形技術の研究対象として、兵庫県出石窯における初代永 澤永信作『白磁籠目菊花紋貼付壺』(1889年)の高度な植物および組紐を挙げている。本年はその造形の近似的技術と思われる中国徳化窯の「練花技法」を現地徳化市の工房で習得した上で、その部分再現作品を研究協力者である中国清華大学美術学院の劉潤福准教授の工房で制作した。また同じく本研究協力者であり『白磁籠目菊花紋貼付壺』を収蔵する兵庫陶芸美術館の仁尾一人氏、マルテル坂本牧子氏に、部分再現作品を実見してもらい、実物とは疎密の違いはあるものの研究対象の技法との近似性とその制作方法について確認した。これらの活動から今後この技法をインスタレーションに活用する為に、以下の点を日本の状況に合わせることが必要と判明した。①薄く作っても保湿が十分であり粘土が破れないようにするため、制作地の湿度や温度に留意する事。②日本より数多くの種類の篦を多彩に使用する事。③作品の透明感を高めるために焼成温度が1300度の高温である事。 その上で本技術を透光性九谷焼に置き換えて空間表現にする実験として、偶然であるが金沢駅西口地下通路内庭園再整備の機会を題材として得る事が出来たため、その制作の一部で本技術と実際の植物を組み合わせた表現を試した。 今後この表現の実験成果を基に、本研究の中心課題である日本・中国の古典園林思想を用いたインスタレーション表現として、2019年4月から11月の期間に行われる瀬戸内国際芸術祭2019で、作品「SEA VINE」ー波打ち際にてーを制作し、広く内外に向けて発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の表現における技術的課題である『白磁籠目菊花紋貼付壺』の調査、および実際の表現研究として本年2019に予定していた芸術祭等における成果発表を、瀬戸内国際芸術祭2019においてほぼ達成できているため。また本来予定していなかった公共空間(金沢駅西口における地下道庭園再整備)の機会を得て、本研究者が東洋的インスタレーションの一つの視点として設定する「変容し続ける状態が鑑賞者の人生観そのものと融合する」表現の実験を長期的に行う状況ができたため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では園林がもつ「人生観や儚さなどが色濃く映し出される対象物や空間構造の在り方」を東洋的インスタレーションの道筋の一つとして設定しているが、今後本研究の期間内に制作した庭園「やまほたるの庭」を活用して、実際の植物の季節の変化を読み解きながら磁器で作られた昆虫を庭園内で入れ替えたり、瀬戸内国際芸術祭における作品「SEA VINE」ー波打ち際にてー では波の形を不定期に変える事等を通して、完成体としての作品は形態ではなく、その時の対象の有り様に鑑賞者自身の心情を連続的に共鳴させる、園林的インスタレーションの在り方について継続的に研究する。 その継続的な制作研究の課題の中で、本年は絵画的な釉薬の扱いとそれを演出する照明に着目する。中国醴陵の釉中彩の技法を参考に釉薬を白磁の上に滲むように、また浮き出すような表現を探求し、本研究の表現主旨により密着した絵画技法を探求すると共に、光の光量や色温度、拡散と収縮性等を組み合わせた静謐な表現を探求することで、東洋的精神空間における陶磁器の絵画表現の在り方を深める。 さらに文献調査として、園林の設計図ともいえる山水画の背景を小川祐允『画遊、中国山水画、その世界』や塚本麿充『北宋絵画史の成立』等から、また日本におけるインスタレーションの受容について、谷川渥『20世紀の美術と思想』、中原祐介『中原祐介美術批評選集』等から行い、絵画と園林、インスタレーションと園林の関係を再考し園林とその周囲の文脈についても考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算をより計画的にまた効率的に使用したため57円の次年度使用額が生じたが、来年度以降の研究活動の中で釉薬等を用いた表現研究の費用として活用したい。
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