研究課題/領域番号 |
17K02370
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
石原 友明 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 教授 (60315926)
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研究分担者 |
砂山 太一 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 講師 (50750460)
石谷 治寛 京都市立芸術大学, 芸術資源研究センター, 非常勤講師 (70411311)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | タイムベースト・メディア / アーカイブ / 写真 |
研究実績の概要 |
2018年度は大きく次の方向からデジタルアーカイブとその連携について研究を進めた。 1)芸術資源研究センターのスタッフを中心に、VR、デジタルアーカイブ・システムの構築、その人工知能A.I.の活用、資料のデジタル撮影のための機材・環境整備、旧式化したメディア資料の再生・コピー、インタビューの映像アーカイブの校正・保存・編集についてのノウハウを蓄積した。デジタル・アーカイブの資料生成のためには、異なる物理的媒体をデジタル情報に変換する必要がある。その時、何をどこまで再現可能で、どのように作業プロセスを組めば効率的で、色彩・質感なども後世に伝えるデジタル・データを残せるだろうか。そした課題について、障がい者が描いた絵画のデジタル化、メディア・パフォーマンスの再演のためのアーカイブ、90年代の美術家による共有空間の活用の歴史に関する資料調査と聞き取りを通して、試行錯誤を繰り返して研究を進めた。 2)アーカイブに関するシンポジウムや座談会などへの参加を通して、実践活動から生まれたアーカイブについての方法や課題について公表し、美術館や他館との意見交換や課題の共有を進めることができた。大阪市立中之島美術館の担当者とは白髪一雄のアーカイブに関する議論を深め、森美術館では資料展の共同企画が実現し、研究成果の公表の機会と、芸術資源のアーカイブへの社会的な関心を高めることができた。 3)上記2点に関しては、当初の予定より大きな成果をあげることが出来たが、デジタルアーカイブ・システムを使った、京都市立芸術大学学内の資料整理のためのシステム構築については十分に作業を進めることができなかった。2019年度の課題としたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
デジタル資料をアーカイブ化するための環境整備とそれらを用いたアーカイブ化作業については大きく進展し、ノウハウを蓄積することができた。さらに近年、日本各地でもメディア・アートの保存・修復やアーカイブをテーマにした展示などが行われ、意見交換やセミナーを受けることができた。山口情報芸術センターや水戸芸術館や京都大学でのタイムベースト・メディア・アートの修復・保存に関するシンポジウムを聴講し、交流を深めるとともに、多摩美術大学アートアーカイブセンターの創設記念シンポジウムに参加して、研究連携の可能性を広げた。またIAMASや慶應義塾大学アート・センターとの課題の共有も深めている。 また海外調査としてシチリアのパレルモで行われたマニフェスタ12の視察は、国外の現代美術活動とアーカイブの課題について知見を得た。この展覧会では、OMAによって都市の記憶の文化・生物学的生態系のアトラスを基盤に、歴史的な空間に不足しているアーカイブを補う形での展示プランが練り上げられた。中心の古い劇場はミーティング・ポイントとして使われ、そこにはアフリカの美術家による図書館が設けられ、移民の歴史アーカイブが仮設された。さらには植物園を通した植物アーカイブの可能性、特に情報環境を支える状況をいかに記録できるかに関する視点も見られる。特に無人機管理のための米国海軍基地設立への反対運動の報道や写真記録をアーカイブ化したタニア・ブルゲラは、デジタルネットワークがグローバルな軍事展開と結びついていることへの抵抗としてアーカイブを活用しており、本課題がテーマとしているデジタルアーカイブのインフラも含めた現代の状況への批評的視座をもたらすもので意義があった。現代アートによるデジタルアーカイブへの反省的な視点も踏まえた上で、今後のデジタルアーカイブの可能性についての研究を深めていく。
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今後の研究の推進方策 |
学内でのデジタルアーカイブを活用した連携とエコシステムの構築のために、京都市立芸大学の移転に向けて、学生参加の写真のアーカイブによって大学キャンパスの記録を残すプロジェクトを実験的に行う。このプロジェクトは1980年代の移転時に写真家井上隆雄氏が、移転前に撮影した写真やネガのアーカイブ作業と対比されるものである。40年の期間の間に写真を用いた記録とそのアーカイブ化の方法は、デジタル技術の進展によってどのように変化しただろうか。こうした課題を実践プロジェクトの形で推進する中で、分散型で参加型のデータベースを模索していく。その技術的課題を具体的に解決し、学生の参加度を高めながら、芸術資源のデジタルアーカイブにまつわる問題や知見を蓄積する。 デジタルアーカイブは中央のサーバーでデジタル資料を集中管理することが効率的であることから中央集中化しがちである。しかしその運営コストの肥大化を防ぐためには、脱中心的なシステムを構築する必要がある。そのとき、ピア・ツー・ピアやブロックチェーンの技術的な展開は、今後のデジタルアーカイブの方向性にとって重要な動向である。専門家からの知見も踏まえながら、理論的・技術的課題を整理し、脱中心的なシステムの構築の可能性も視野に入れて研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
同時に進行している文化庁事業の進捗状況から、今年度はそちらの資金での研究を先行させて、未使用の繰り越し額で、次年度の実施をより充実した形で進めようとしている。
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