研究課題/領域番号 |
17K02378
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
佐藤 英 日本大学, 法学部, 専任講師 (10409592)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ナチス / クレメンス・クラウス / マスメディア / ラジオ / 音楽政策 / プロパガンダ / ドイツ / オーストリア |
研究実績の概要 |
2018年度の成果は主に以下の二点である。 第一に、クレメンス・クラウスが出演した、帝国放送シュトゥットガルト局の番組についての論文を刊行した。論文の冒頭では、1940年ごろに制作された帝国放送協会の録音盤リストから確認できる事実として、1930年代半ばからドイツの放送局ではオペラの放送用録音が数多く保存されるようになっていたこと、その際にシュトゥットガルトがベルリンと並んで重要な拠点の一つとなっていたことを述べた。この認識のもとで、クラウスの同局における活動の意味を探った。彼が同局のオペラ番組で指揮をしたのはモーツァルトの《皇帝ティートの慈悲》、プッチーニの《外套》と《修道女アンジェリカ》の3曲である(ほかにヴェルディの《レクイエム》の指揮も打診されていたが、クラウスがキャンセルしたため、ヨーゼフ・カイルベルトが代役となった)。これらの演目について、番組制作者フリッツ・ガンスとの書簡を基に、放送までのプロセスを可能な限り明らかにした。また、放送記録、音楽誌に掲載された番組の批評記事、現存する音源を基に、番組制作のコンセプトを考察した。特にモーツァルトの演奏に関しては、翻訳台本を作成したヴィリ・メクバッハの役割にも注目し、歴史に埋もれていた《ティート》の再評価にあたり、クラウスの番組が果たし得た歴史的意味にまで踏み込んで検証することができた。 第二に、クラウスがベルリンの音楽文化に果たした役割と放送文化との関わりについて、情報の収集と整理を行った。今年度は、1930年代のラジオ番組表をマイクロフィルムで入手し、彼が出演した番組をピックアップすることにかなりの時間を割いた。この作業によって得られた情報と、これまで行ってきた公文書館のドキュメントの調査結果から総合的に判断することで、彼と帝国放送協会、ひいてはナチスの上層部との関係をとらえることができるようになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シュトゥットガルト局におけるクラウスのオペラの演奏については、予定通りに論文を刊行できた。彼のベルリンにおける音楽活動と放送文化との関わりについての論文は、予定よりも完成が遅れている。この理由は、情報が想定以上に増えてきたこと、また、当初予定していた第二次大戦前後のことだけにとどまらず、もう少し時期をさかのぼって考察する余地が出てきたことにある。ベルリンに関する論文は完成の見通しが立ってきていること、また、以下の今後の研究の推進方法にも記すように、今年度以降のウィーンにおける彼の活動の考察のためのリサーチについても、国内・国外における研究上の作業工程がより明確になってきたことから考えるに、本研究はおおむね順調に進展していると判断できる。 今年度も、クラウスの事例を探すために、アーカイブのドキュメントやラジオ番組表など、多数の資料に目を通した。これまでに収集してきたものを読み直すだけでなく、新規の資料にアクセスすることにも努めた。作業の工程上、クラウス以外の事例についても、多数の情報を目にすることになるため、そこから新たな知見を導き得るテーマもいくつか見つけている。当面は、当初の研究計画を遂行すべく、クラウスのベルリンとウィーンにおける活動についてのリサーチを行うことになるが、余力があれば、クラウス以外の演奏家の事例についても成果を公表していきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
目下、クレメンス・クラウスのベルリンにおける活動について、音楽文化とラジオ放送との関わりに着目しながら考察を進めているところである。2018年度は1930年代のラジオ番組表を調査することにかなりの時間を割いた。その結果、この問題を考えてゆくための重要な情報を多数得ることになった。この成果については、2019年度に論文として刊行することを目指したい。 ウィーンにおけるクラウスの活動に関する考察にあたっては、当初の予定とは違うアプローチが必要になってきている。研究開始当初、「フェルキッシャー・ベオバハター」のウィーン版は現地でしか閲覧できなかったが、2018年度から、インターネットでの閲覧が可能になった。これにより、ウィーン滞在中に新聞調査のために要していた時間を大幅に短縮できるようになった。その一方で、ナチス時代のウィーンにおける音楽文化や放送に関する、これまであまり調査されていない資料があることがわかってきた。この資料の閲覧のために、今年度の後期にウィーンでの調査を予定している。また、2018年度には、数年来、コンタクトを取っていたオーストリア放送協会より回答があり、同局が所有するクラウスの録音に関する詳細なデータを得ることができた。この内容の精査も、今後の課題としたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外での研究調査を校務等で実施できなかったため、旅費に残額が生じた。使用できなかった旅費は、2019年度のうちに、海外での研究調査の費用として使用する予定である。
|