研究課題/領域番号 |
17K02378
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
佐藤 英 日本大学, 法学部, 准教授 (10409592)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナチス / クレメンス・クラウス / マスメディア / ラジオ / 音楽政策 / プロパガンダ / ドイツ / オーストリア |
研究実績の概要 |
クレメンス・クラウスの音楽放送における活動を検証するために、本年度はドイツ連邦公文書館に所蔵されている各地の放送局間の交信文書の調査を集中的に行った。2017年度に現地に赴いてこの資料は部分的に閲覧していたものの、当初の予想以上に分量が膨大で、しかも1枚ずつ読んでいく以外に方法がなかった。短期滞在では検討できる資料に限度があるため、先方と交渉した結果、マイクロフィルムのコピーを提供してもらい、それを用いて調査を継続することが可能になった。2019年度末までに10万枚を超える文書に目を通すことができた。 先に記したように、この調査では文書を1ページずつ読んでゆくことになったが、クラウス以外の音楽家の放送についても相当数の情報を発見することができた。そのため、今後の研究で必要な文書に容易にアクセスできるよう、重要な人物や事例に関する簡易的な目録を作成した。この資料を本格的に活用していくための詳細な分析は今後の課題だが、先行研究であまり触れられていない素材だったため、今回の調査で何がどの程度まで残っているかを大づかみに把握できたことの意義は大きい。 以上は国内で実施した研究だが、本年度はこのほかに海外での調査も予定していた。残念なことに、コロナウイルス蔓延のため、中止にせざるを得なかった。 今年度は、第二次世界大戦開始頃のドイツの音楽放送に関する論文を刊行した。当初の計画では、クラウスとベルリン・フィルの放送出演にテーマを限定する予定だったが、上記の調査の結果、それを含めながら、より大きい視点で当時の動向をとらえることが妥当と判断した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ドイツ連邦公文書館所蔵の資料については、先に記したように、マイクロフィルムでコピーを入手できたため、日本国内で調査を行うことができた。放送におけるクラウスの活動に関してだけでなく、他の演奏家の動向についても多数の事例を発掘できたため、今後の研究のための重要な基盤を築くことができた。この点については、「当初の計画予定以上に進展があった」と言える。 問題は、今年度実施予定だった海外での調査である。2017年度の夏に行った調査の継続で、ナチス・ドイツ時代のクレメンス・クラウスの活動に関する未刊行の文書を2020年3月に現地で閲覧する予定だったが、コロナウイルスの蔓延が深刻化したため、渡航を断念せざるを得なかった。 これらの点を勘案し、現在までの進捗状況を「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では海外に所蔵されている一次資料を多用するため、コロナウイルス問題の影響が想定される。2020年4月現在、ドイツ語圏と日本を結ぶ郵送事情が極めて悪いため、インターネットを使ってのデータ送信が可能な場合には、極力そのサービスを用いるなどして、日本国内で研究を継続できるように努力したい。海外の資料館に直接訪問しなくてはならないケースについては、状況を適切に判断し、渡航可能な時期を逃さぬように心がけたい。コロナウイルス問題が長期化する可能性もあるので、その場合には研究期間を延長することも想定したい。 今後の研究成果の公表については、次のように考えている。 クラウスのベルリンにおける活動で新しい資料をもとにさらに考察できる余地があるため、2020年度内に論文として刊行することを目指したい。 研究開始当初、クラウスの活動をメインに論文執筆を続けることを想定していたが、この方針は場合によっては変更が必要と考えている。ドイツ連邦公文書館の文書をはじめ、様々なアーカイブ資料が集まってきたことで、当時のドイツの音楽界やラジオ放送の動向をメインとして丹念に描き、そこにクラウスの活動を位置づけたほうが、当時の事情を適切に論じられるケースが出てきたためである。そうした観点に基づく研究成果についても、公表の可能性を検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月に予定していた海外での資料調査がコロナウイルス蔓延のために実施できなかったため、差額が生じた。状況が改善次第、海外での調査を行う予定である。
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