最終年度にあたる2019年度は、大正イマジュリィ学会と、国際日本文化研究センター機関拠点型基幹研究プロジェクト「大衆文化の通時的・国際的研究による新しい日本像の創出」との共催で、2019年8月、国際シンポジウム「東アジアにおける大衆的図像の視覚文化論」総括公開円卓会議を開催した(於同志社大学)。 この円卓会議では、趣旨説明「新聞というメディア:情報産業と図像の大衆化」を行い、大衆的な広告メディアの一種である新聞広告の特性を理解するためには、新聞広告を、視覚文化を構成する諸領域の水平的ネットワークの中に位置づけることが重要であることを指摘した。すなわち、新聞広告が、女優のブロマイド写真や報道写真、マンガ、新聞小説挿絵などに寄生して、広告としての機能を果たしている可能性に言及した。 また、2020年3月には、研究成果報告書『戦間期東アジアにおける大衆的図像の視覚文化論:新聞広告を中心に』を出版した。掲載論文の総数は20本で、「総括論文」として「広告図像の視覚文化論:京城三越のメディア戦略」を執筆した。本論では、図像を視覚文化論的に理解する方法論を、三越が京城支店の開設に際して制作した2種類の広告図像のうち、主として杉浦非水の手になる《京城三越新館落成》のポスターを事例として詳説した。すなわち、作品を理解する過程を、図像論と運用論に分け、図像を取り巻いている状況的要素である〈注文主〉〈制作者〉〈仲介者〉〈受容者〉〈コンテクスト〉〈コード〉との関連において、図像の内容/形式/様式/機能を理解する方法を具体的に論じた。このような視覚文化論の枠組を共有する個別論文は、東アジアにおける日本製品の広告に見られる文案と図案の機能を、戦間期というグローバルな状況において考察することの重要性を改めて示すこととなった。
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