今年度は、ヌーヴェル・ヴァーグ誕生前後のおよそ四半世紀(1944-68年)のフランスにおける映画批評の展開のうち、引き続きアンドレ・バザンに焦点を当てつつ、同時にバザン以降の批評および理論の展開にも気を配った研究を行った。 バザンに関しては、『アンドレ・バザン研究』第6号(堀潤之・伊津野知多・角井誠編)の編者の一人として、とりわけ特集「バザンの批評的実践」の取りまとめにあたり、同特集内で、バザンが戦後のアカデミズムに登場した学際的な映画研究プログラムであるフィルモロジーが個別の映画作品を等閑視するさまを激烈に批判した「フィルモロジーのフィルモロジー序説」を訳出し、そのコンテクストを整理した解題を執筆した。 また、古典的映画論から映画批評を経て、フィルム・スタディーズや哲学的な映画論まで、独自のやり方で映画を論じてきた21名の人物を取り上げ、その所説を紹介する概説書『映画論の冒険者たち』(堀潤之・木原圭翔編、東京大学出版会)を共同で編纂し、個人としては、1950年代末から映画批評を手がけ、60年代半ば以降のフランスにおける映画理論を牽引したレーモン・ベルールと、バザンをはじめとする映画批評の伝統を批判的に捉え直しているジャック・ランシエールの章を執筆した。 さらに、ヌーヴェル・ヴァーグの再来とも言われた映画作家レオス・カラックスが、キャリアの最初期の1970年代末に『カイエ・デュ・シネマ』誌に短期間執筆していた批評を、1960年代初頭の批評のあり方を継承するものとして読み解いた(「批評家カラックスの肖像――スタローンとゴダールの間で」)。
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