研究課題/領域番号 |
17K02400
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研究機関 | 立命館アジア太平洋大学 |
研究代表者 |
金井 秀介 立命館アジア太平洋大学, 教育開発・学修支援センター, 准教授 (90635492)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地方独立系小規模映画館 / 顧客価値創造 / マーケティング / エスノグラフィー / ケーススタディ / グラウンデッドセオリー |
研究実績の概要 |
本研究は、地方独立系小規模映画館の顧客価値創造メカニズムについて、日英の比較を通じて経営資源の観点から明らかにすることを目的とする。地方の独立系小規模映画館経営に関する包括的な研究は限られている。しかし、同種の映画館は映画産業の多様性保持において重要な存在である。大規模映画館(シネコン)の隆盛に比して減少を続ける独立系小規模映画館の中でも、顧客から支持され、地方で安定経営を続ける映画館の顧客価値創造メカニズムを解明する。当該年度の研究実績としては、主に以下の4点である。 1)現行研究対象先での研究進行:現行研究対象先(熊本電気館、大分シネマ5、札幌シアターキノ)に対しては、追加取材として、主にインタビューと参与観察を実行した。 2)新規研究対象先の発掘:有力な研究対象先として中国地方、および北関東地方の映画館を発見することが出来た。どちらも国内では有数の経営能力を有しているのみならず、世界においても有力な事例として研究価値の高いものと思われる。 3)先行研究の整理:研究の進展に伴って、従来の経営学関連の先行研究に加えて、フィルムスタディーズなど学際的先行研究との関連性からのアプローチを行った。イギリスの映画館経営の先行研究ではシネコンなど大規模映画館に加えて、独立系小規模映画館のその地域社会における価値研究が本研究においても意味を持つ。 4)研究方法の再整備:まず、ケースの整理としてa)映画館の規模(小規模映画館か大規模映画館、シネコンか)、b)映画館経営オペレーション(全国規模か地方か)を軸に4分類し、地方独立系小規模映画館を再定義した。(小規模映画館かつ全国規模経営オペレーションの映画館もイギリスには存在する。)次にデータ収集ではエスノグラフィーによる参与観察と半構造化インタビューを主体に行う。そしてデータ分析から理論構築までをグラウンデッドセオリーによって実行することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)フィールドリサーチ:2018年8月に広島県広島市の八丁座の調査を行った。経営者2名へのインタビューと、参与観察を実行した。地方小規模映画館としては珍しくエンタテインメント主体の顧客価値創造を行っている映画館として、本研究の主要ケースとして取り扱うことにした。2018年8月に熊本県熊本市電気館の調査を行った。経営者へのインタビューを実施した。この映画館は利益を上げていることから研究対象としていたが、参与観察の難しさが存在すること、映画館以外の事業(不動産事業)が経営の大きな部分を占めていることから、主要ケースとしては扱わない方向へと修正を行った。2018年9月に北海道札幌市のシアターキノの調査を行った。経営者へのインタビューと参与観察を行った。本年度の継続調査からこの映画館は利益を継続して上げている映画館であることに加えて、多数のアルバイトや共同出資者を巻き込んで顧客価値を創造する独自の特徴を持つことが分かってきており、主要ケースとしている。(札幌での調査中に北海道地震に遭遇し、参与観察部分は途中で中断している。) 2019年1月に大分シネマ5のオーナーを本学(立命館アジア太平洋大学)に招聘し、講演セミナーを実施した。 2019年3月に群馬県高崎市のシネマテークたかさきの調査を実施した。今回は同映画館オーナーが主催する高崎映画祭を中心に予備的調査を行った結果、本研究との親和性が高いことが判明した。 2)研究方法論:2018年9月に質的研究法、特にエスノグラフィーの第一人者である北海道大学大学院小田博志教授にお会いし、本研究の研究方法についてアドバイスをいただいた。さらに同年11月に小田先生を本学に招聘し、質的研究法についてのご講義とさらなるアドバイスをいただいた。 3)学会発表:2018年12月に16th Asia Pacific Conferenceにて学会発表を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
1)フィールドリサーチ:2019年4月、5月、6月、7月に、大分県大分市のシネマ5にて、非常に珍しいイベントである浪曲講座への参与観察を予定している。この講座は10月の同映画館による浪曲師へのイベントへとつながることから本研究の主要研究対象として重要な位置を占めている。2019年5月下旬に群馬県高崎市のシネマテークたかさきの研究を実施する予定。この際に同映画館オーナーへのインタビューが予定されている。同映画館に対しては、本年度さらに映画イベント等への調査を依頼する予定である。2019年8月に広島県広島市の八丁座への調査を予定している。映画館オーナーへの取材に加えて、主要イベントの参与観察を予定している。同時に同映画館の顧客調査実施を予定している。2019年9月に北海道札幌市のシアターキノへの調査を予定している。同映画館オーナーへの追加取材、映画イベントへの参与観察、および顧客調査を予定している。2019年9月にイギリスの映画館現地調査を予定している。 2)先行研究:顧客価値に関する理論研究と日本とイギリスにおける地方独立系小規模映画館の顧客価値に関する実証研究の比較研究を行う。 3)研究方法論:2019年5月にM-GTA研究会第86回定例研究会への参加を予定している。本研究の主要分析方法として、実際に即した分析へとつなげる。 2019年9月に北海道大学大学院教授の小田博志先生とのミーティングを予定している。エスノグラフィーを使用した本研究の実際に即した分析へとつなげる。 4)学会発表:2019年6月に日本文化経済学会での発表を予定している。 2019年11月に13th Annual Conference on Asian Studies (ACAS)において学会発表を予定している。2019年12月に17th Asia Pacific Conferenceにて学会発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
前述の通り、2018年9月の札幌シアターキノのフィールドリサーチ初期に北海道地震が発生したため、安全上の観点から現地調査を切り上げたため予算との差額が発生した。 2019年度の研究においては、前年度に有力なケースが発見されたこと(広島八丁座)もあり、現地調査をしっかり行っていくことを予算執行の基本にする。細かな予算執行の詰めに関しては、対象ケースにおけるフィールドリサーチの時期などの調整も併せて予算管理に当たっていく。
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