研究課題/領域番号 |
17K02406
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
宮腰 直人 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (50759157)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日本文学 / 奥浄瑠璃 / 語り物 / 東北の芸能文化 |
研究実績の概要 |
本研究は、東北地域の語り物文芸・奥浄瑠璃享受の実態を解明し、芸能環境と関連づけて諸本展開の分析を行い、旧来の作品論を越えた奥浄瑠璃研究総体に及ぶ研究視座の獲得と新たな研究手法の提示を目的とする。具体的には、『湯殿山の本地』『天狗の内裏』『庚申の本地』を中心とした研究を推進している。 本年の研究実績としては、『湯殿山の本地』の諸本のうち、明和二年(1772)の奥書をもつ酒田市光丘文庫蔵『湯殿山御伝記』の調査研究をおこなった。当該テクストはこれまでほとんど検討されていない伝本だが、その表現の分析を通して『湯殿山の本地』諸本の展開を理解する上で指標となる表現と研究視座を得た。また、あわせて東北を中心に広がりをみせた出羽三山の信仰圏についても理解を深めた。なお、同館に所蔵される『最上出羽少将庄内退治』(享保2年写本。六段)も調査した。当該テクストもほとんど研究の俎上に載せられることがないが、調査の結果、内容はもとより、本文に三重が付されるなど、本研究のテーマである出羽三山信仰圏の文化環境を探る上で重要なテクストであることが判明した。『天狗の内裏』については、関連する奥浄瑠璃テクスト『常盤鞍馬破り』とあわせてお伽草子・古浄瑠璃の義経物のテクスト群と対照した論文「『義経地獄破り』の生成基盤 : 稚児学匠としての牛若像の展開から」(「立教大学日本文学」120号、2018年)を執筆することができた。『庚申の本地』については、新たなテクストの収集とともに、当該地域の庚申信仰に関する文献を集め、文化環境の理解につとめた。『庚申の本地』は、相当数の諸本が伝存すると見られ、ジャンルとしての奥浄瑠璃を理解するうえで重要なテクストであることが再認識できたのは成果であった。芸能環境については、菅江真澄をはじめとする東北を訪れた人びとの紀行文・日記・記録類を重点的に検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績に示したように、本研究では『湯殿山の本地』『天狗の内裏』『庚申の本地』を中心に研究を推進しているが、各テクストについてそれぞれ調査を中心に研究を進めることができたたため。また、当初の計画ではその重要性を認識できていなかったテクストについて、調査を通して文化環境の考察の視座からその意義が認められることが判明し、さらなる研究の進展が見込まれるため、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査データに基づいて、テクストの分析を多角的に進めていく。庄内地域と米沢・置賜地域を中心にしつつ、書物文化や芸能者の動態だけではなく、当該地域の宗教環境にも目配りをしながら研究を推進していく。当初の見通し通り、今回主対象としたテクストは出羽三山信仰をはじめとする地域の信仰の動態と関わると目される。宗教テクストとしての位相を見極めるべく研究を推進する。また、論文の執筆と公刊によって成果も発信する予定である。なお、奥浄瑠璃は地域文芸の側面をもつため、なるべく各地域に研究成果が還元できるよう、発信することにつとめたい。
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