平成31(令和元)年度は大行寺信暁の著書の奥付・刊記を主な資料として、江戸後期から明治中期における仏書の弘通と流通について研究した。その成果は「書物・出版と社会変容」研究会の12月例会で「近世後期から明治中期における仏書の弘通・販売ー大行寺信暁の著書を通して」と題して研究発表した。その具体的な内容と意義、重要性について記すと、まず江戸後期に於ける信暁の板本は、彼が住職を勤める大行寺(京)とその掛所である高庵(大坂)、大行寺の本山にあたる佛光寺(京)、そして町の本屋を介して、その多くは京・大坂を中心に弘通していたことが明らかになった。また大行寺蔵板本の弘通には副業として―真宗の篤信者として、或いは板元(大行寺・信暁)の親類縁者として―の本屋の存在が注目されることを指摘した。副業としての本屋の活動については、管見に従えば、これまでほとんど研究されていないようであるが、近世の出版を研究する上で、こうした副業としての本屋の活動に今後は留意する必要があるだろう。また、明治20年代前期まではその販売店は引き続き京都が中心であった。しかし、明治時代に於ける仏教書の販売事情を信暁の著書で辿るならば、それは明治20代中頃には、全国的な販売網が成立したことが確認できるのである。そして、その取次を担う書店を見ると、仏教書は一般書籍とは別のルートが存在していたことが考えられることを指摘した。今年度の研究成果は『書物・出版と社会変容』第25号(書物・出版と社会変容」研究会編、令和2年10月刊行予定)に掲載される予定である。
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