本研究の目的は、近代奈良県における書物文化環境を明らかにすることであった。そこで、幕末から戦後直後あたりを時間的範囲として、現奈良県領域に所在した印刷業者、流通業者、出版業者、小売業者、蔵書家など書物・新聞・雑誌の生産・流通・需要に関わる人びとの一覧を作成し、使用した資料を時系列に配置して公開した(奈良女子大学学術情報センターリポジトリ)。これによって、地域における書物等の受容環境、関係業者の活動時期を容易に把握することができるようになった。また、地域をまたいでの活動も明らかにすることができるようになり、本研究をとおして近代奈良県における書物文化、および関係業者交流の実態を可視化することができた。このことは、ある出版物や出版業者の地域的特性が文学史などのメインストリームとの関わりにおいて発見され考察されてきたのに対して、地域全域の実情や地域間交流といった実態をふまえて特性を見さだめることができるようになったということでもあり、今後の研究に寄与するところが大きいと考える。 奈良女子高等師範学校『図書原簿』の出版流通史的分析については、図書原簿記載図書と仕入れ先との関係を分析し、「出版流通史料としての図書原簿」として『書物学』18号(勉誠出版、2020.7)で公開した。 奈良県立図書情報館所蔵『奈良県風俗誌』については、上述のリストの訂正増補版に加えていく予定である。 奈良県立図書情報館所蔵奈良県庁文書等における新聞文書、および同館所蔵新聞記事調査については、上述のリストに反映した。未入力の分については、今後の訂正増補版に追加していく予定である。
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