本研究は、鎌倉後期から室町期に成立した歌論や連歌論に現れる、日本語の音韻に関する言及や、音図を利用した考え方にもとづく注釈方法に着目して考察する。その考察を通して、和歌や連歌について論じた言説を、韻学史という観点からとらえ直し、文学と日本語学の方法を架橋する視座から、日本の中世後期の詩歌の深奥にある言語意識と思想を解明することを目的とするものである。 研究の計画は、全体で平成29年度から32年度までの四年間でたてている。その期間を三つの段階に分けておこなう予定である。すなわち、まず(1)鎌倉後期から南北朝期における歌論・連歌論について、資料収集と注釈的検討をおこなうこと。次に、(2)韻書類や歌学書・悉曇学書・能楽論等との比較と分析をおこなうこと。そして、(3)平安後期から江戸期にわたる韻学史および文学史のなかに位置づけること、である。 研究の3年目にあたる令和元年度(平成31年度)には、昨年に引き続いて、連歌論と百韻連歌の賦物に現れる、韻学的な発想に関連があると思われる用語について検討した。前者においては、音韻相通に関連する記述について、さらに検討を進めた。心敬『さゝめごと』などをおもに対象とした。後者においては、たとえば「二字反音」「三字中略」等といった連歌に特徴的な賦物について、用例を収集した。そのうえで、韻学に関する書物の現れる「反音」という用語も参照しながら、連歌において上記のような賦物がおかれることについて考察した。
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