本研究は、鎌倉後期から室町期に成立した歌論や連歌論に現れる、日本語の音韻に関する言及や、音図を利用した考え方にもとづく注釈方法に着目して考察する。その考察を通して、和歌や連歌について論じた言説を、韻学史という観点からとらえ直し、文学と日本語学の方法を架橋する視座から、日本の中世後期の詩歌の深奥にある言語意識と思想を解明することを目的とするものである。 四年間の研究期間を、三つの段階に分けておこなう計画で研究をすすめた。すなわち、まず(1)鎌倉後期から南北朝期における歌論・連歌論について、資料収集と注釈的検討をおこなうこと。次に、(2)韻書類や歌学書・悉曇学書・能楽論等との比較と分析をおこなうこと。そして、(3)平安後期から江戸期にわたる韻学史および文学史のなかに位置づけること、である。 今年度は研究期間の最終年度であったが、新型コロナウイルス感染症の拡大および感染拡大予防措置により、所蔵機関での資料の調査収集が困難であったうえに、勤務校の入構制限もあったため、研究が予定通りに進捗しなかった部分もある。だが、本研究課題のまとめをすべく、以下のような研究を実施した。すなわち、連歌論や百韻連歌に見られる、「二字反音」「三字中略」等の賦物といった韻学的な発想に関連する用語について、昨年に引き続き検討した。平安後期の明覚『悉曇要訣』『反音作法』、鎌倉中期の了尊『悉曇輪略図抄』といった悉曇学書を参照し、また必要に応じて江戸初期の契沖の言語論に現れる悉曇学に由来する記述も参照して、鎌倉後期から室町期における連歌と韻学の関わりについて考察し、連歌の様相を、韻学史及び文学史のなかに位置づけることを試みた。
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