今年度より『空華集』の訳注稿を開始した。訳注するに当たっては、日本南北朝時代の禅僧の詩文であるということを意識した。作詩の背景を理解するためには、義堂の日記『空華日用工夫略集』や同時期の禅僧の詩文集を精査する必要があった。また典故に関して言えば、中国の一般詩文集、所謂外集を利用していると考えられていたが、実際には内典、特に偈頌から引用が頻繁に見受けられた。 この訳注作業によって、これまで中世禅林の中ではその人物像が比較的に明らかにされていた義堂であるが、対人関係や作詩背景については不明な点が多く、今後の調査が必要であることが分かった。また詩題から一般的詩文集に近いと考えられていたが、義堂の詩が偈頌的要素を多分に含んでいることについては、これまでの研究が表面的であったことが証された。訳注作業を継続することで内容の実態を明らかにし、義堂の文学観を究明しなければいけないことを実感した。 研究分担者の朝倉和氏は、『花上集』に収められる義堂周信の詩十一首について、その抄物を利用して、訳注を公表した。義堂の詩は後世においても高く評価され、その詩が選集に収められている。しかもその詩に対して禅僧が解釈しており、抄物を通じて行った訳注は、今後の『空華集』訳注作業に有益な示唆を与えるものと言える。 研究分担者の朝倉尚氏が『禅林の文学―戦乱における禅林の文芸』を上梓した。本書における連句関連の論考は応仁の乱期が中心であるが、その発端は義堂に存する。今後の課題としたい。
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