研究課題/領域番号 |
17K02420
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研究機関 | 静岡文化芸術大学 |
研究代表者 |
二本松 康宏 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 教授 (90515925)
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研究分担者 |
永松 敦 宮崎公立大学, 人文学部, 教授 (30382451)
中澤 克昭 上智大学, 文学部, 教授 (70332020)
二本松 泰子 長野県短期大学, その他部局等, 准教授 (30449532)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 諏訪上社 / 矢島家文書 / 諏訪縁起 / 諏訪大明神画詞 / 物忌令 |
研究実績の概要 |
本年度は、諏訪市博物館に寄託されている矢島家文書の調査を中心に行った。矢島家は諏訪上社の権祝を務めた氏族で、諏訪市博物館には、当家から寄託された文書がおよそ2000点現存している。その中から中世後期に遡る情報を含んだ文書をいくつか取り上げ、その記述内容について検討を進めた。具体的な考察内容と主な研究成果は以下の通り。 ①矢島家伝来の権祝本『諏訪大明神画詞』の本文について、翻刻および諸本との異同に関する比較検討を行った。従来『諏訪大明神画詞』の権祝本といえば、守矢家文書に含まれる写本が主な研究対象とされてきた。それは、『諏訪史料叢書第二巻』に所収されたのをはじめとして、比較的早くから翻刻文が公刊されてきたためである。しかし、本研究において矢島家伝来の権祝本の本文精査を行ったところ、当該本も部分的に古態を残す善本であることが明らかになった。 ②中世後期~近世において上社で制作された数種類の『物忌令』の写本群について、本文を翻刻し、鎌倉時代の成立とされる『諏訪上社物忌令』との比較などを通して、その叙述内容の特性を分析した。 ③矢島家の由緒を記した系図類について取り上げ、当家の由来にまつわる諏訪縁起の言説を検討した。その結果、それらの叙述には『諏訪大明神画詞』の文言をベースにしつつ、矢島家所縁の地域における在地伝承などを積極的に取り込んでいることが明らかになった。 ④諏訪盛條が奉納した『諏訪縁起』について、その叙述内容を分析した。その結果、当該文書に見える諏訪縁起の言説は、『諏訪大明神画詞』の叙述を踏まえて成立していることが確認できた。これによって、当該文書が『画詞』の享受の事例として重要であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者(二本松康宏)と共同研究者(永松敦、中澤克昭、二本松泰子)を中心として「中世後期諏訪信仰研究会」を立ち上げ、年に数回の研究会を実施する予定であったが、各人の予定が合わず、実現することができなかった。しかしながら、諏訪市博物館での文献調査が予想以上に進捗し、中世後期の諏訪信仰にまつわる文化事象のうち、諏訪の縁起伝承に関する研究を予定以上に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
まずは、性急に「中世後期諏訪信仰研究会」を立ち上げ、1年に3回以上の例会を実施することにする。それによって、中世後期諏訪信仰の実像について、歴史学及び民俗学の分野からのアプローチを進展させる予定である。 また、引き続き権祝矢島家文書の調査を進めて、上社における中世後期諏訪信仰の諸相についての考察を進めてゆく。同じく上社の大祝家についても調査を進めるべく、諏訪市博物館に寄託されている大祝家文書のうち、中世後期以降のものを対象として、考察を試みる。それと同時に、下諏訪地域の調査も開始して、中世後期の下社に関する情報を記載した文献類を蒐集してゆく。さらに、夏休みなどの長期休暇を利用して、南九州地域(宮崎県・鹿児島県)における諏訪信仰のフィールド調査も実施する。具体的には、御射山祭を中心とする当該地域の諏訪社の神事を実地調査するほか、当地に伝わる甲賀三郎伝承について、在地のテキストを中心に考察を進めてゆく。 これらの研究成果については、逐次公刊論文として発表してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、研究代表者及び研究分担者が主催する「中世後期諏訪信仰研究会」の例会を実施する機会がなかったため、ゲストスピーカーとして招く講師への謝金が残余してしまった。
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