研究課題
基盤研究(C)
本研究では、主に近世初期に刊行された謡本の制作に能役者と能を愛好する素人がどのように関与したのかを考察した。従来の研究では、謡本刊行という大事業は能役者主導で行われたという先入観があった。これに対して本研究では、「刊本謡本を作る」という行為は謡本を書写・収集するという素人の謡文化と深く接続するものであり、彼らこそ出版黎明期の謡本制作を牽引したという重要な問題提起を行なった。
能楽
能の詞章を記した謡本は、楽譜の一種でありながら読み物のように扱われることがある特殊な本である。それゆえ、他の同時代の刊行物との類似性がありながら、切り離されて研究されてきた。本研究では近世初期の出版文化に関する研究を積極的に援用して、これらの研究と謡本研究を接続させることを実践した。この成果によって、謡本と他の刊本との共通性と謡本の独自性が明らかになり、今後より広い視野で謡本が研究される契機を作ることができたと考える。