現代の私達にとって、『源氏物語』などの王朝物語文学はあくまでも「文学」というイメージである。しかし当時、貴族女性が物語を読むことは、社会性を身につけるための教育の一環であり、特に和歌は人との最も重要なコミュニケーションの手段であり、自己表現手段でもあった。物語の和歌はそうした社会教育テクストとしての役割を担っていることを本研究で明らかにした。つまりそこでは、和歌を学ぶこと・和歌を詠むことは、私達が詩歌を作ることとは別次元の社会的行為であった。こうした捉え方は、王朝物語文学や王朝和歌へのイメージを一新させるものであり、「古典文学」とは何かという問題へも繋り、学術的・社会的意義が高いと考えられる。
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