研究課題/領域番号 |
17K02430
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
志賀 賢子 (川崎賢子) 立教大学, 文学部, 特任教授 (40628046)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日本近現代文学 / インテリジェンス / プロパガンダ / 検閲 / 文化冷戦 / 映画 / 大衆文化 / 越境 |
研究実績の概要 |
国内調査においては20世紀情報データベース、ロックフェラー財団データベース等を横断的に用いて資料収集と分析を行った。ロックフェラー財団の日本人創作家招聘プログラムで渡米した江藤淳、有吉佐和子、石井桃子、大岡昇平、小島信夫、安岡章太郎、庄野潤三、阿川弘之らの資料収集と、日本側のプログラム運営の責任者である坂西志保の資料収集を並行して進めた。 国外調査においては、香港、ロシアにおけるフィールドワークを行なった。 20世紀メディア研究所(早稲田大学)における国際的かつ学際的共同研究の運営、例会司会、機関誌編集を行った。オーストラリア、ウロンゴン大学におけるオーストラリア・アジア学会(Asian Studies Association of Australia)において発表が採択され、The Significance of Overseas Experiences to Ariyoshi Sawako’s Literatureの報告を行った。国際日本文化研究セミナー第二回(広島大学)において、ロックフェラー財団の日本人創作家招聘プログラムによって渡米した文学者たちと国務省プロジェクトによって渡米した火野葦平におけるアメリカ表象の変容を研究した金志映の報告にコメンテーターとして参加した。他に日本近代文学会春季大会(早稲田大学)におけるパネル発表、江戸川乱歩新世紀の国際シンポジウムの司会をつとめ、これらを集約した論文集の共編および論文を発表した。「貫戦期」のプロパガンダ研究、インテリジェンス研究、GHQメディア政策研究の成果として『もう一人の彼女 李香蘭/山口淑子/シャーリー・ヤマグチ」を上梓した。これは、文学文化研究および、文学的言語と映像言語の領域にまたがる研究の成果でもある。総じて実り豊かな一年であったと評価できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者のこれまで十数年に及ぶ日本文学日本文化研究、検閲・インテリジェンス・プロパガンダ研究を、「貫戦期」(満州事変から、日中戦争、太平洋戦争、文化冷戦期を連続的に捉える)の枠組みによって総合的に考察する試みとして単著『もう一人の彼女 李香蘭/山口淑子/シャーリー・ヤマグチ』を上梓することができた。本書においては久米正雄、丹羽文雄、田村泰次郎ら文学者の貫戦期における情報戦およびプロパガンダとの関わりについても言及している。 ASAAにおいては、文化冷戦期における日本文学者の国際的な動向の事例としてロックフェラー財団の日本文学創作家の招聘プログラムによって渡米した有吉佐和子について、彼女が見出したプエルトリコなどのポストコロニアルの問題群、フェミニズム言説の日本への翻訳紹介、米国内の人種問題の再発見などに焦点を当てて報告した。 なお、ロックフェラー財団の招聘プログラムにより渡米した文学者たちの中では、いわゆる第三の新人たちにおける「家族」「国家」「性」「老い」の言説および表象と、有吉佐和子の方法との対照性に注目して考察を深めたい。この課題をめぐっては、すでにJSAA(全オーストラリア日本学会)における発表が採択され、2019年7月に報告予定である。 上記のように、研究計画に沿って、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、ロックフェラー財団の日本文学者招聘プログラムの運営者としてのキーパーソン坂西志保のインテリジェンス戦略についての分析をより深めたい。また、この観点から、米国公文書館における文化冷戦期の対外政策、文化広報、ソフトパワーの基礎文献を洗い直す。 従来ロックフェラー財団の日本人創作家招聘プログラムにより渡米した文学者についての研究は、それによってGHQのメディア政策および占領下における検閲制度を発掘した江藤淳の対米言説、戦後民主主義の言論空間批判がクローズアップされてきた。また江藤淳『成熟と喪失 “母”の崩壊』は上記プログラムの体験者である「第三の新人」たち、具体的には、小島信夫、庄野潤三、安岡章太郎らに焦点を当てている。しかしながら、文化冷戦期の日本文学の国際化という観点からは、アメリカによるメディア政策は日本対アメリカの二国間関係の内側だけで形成されたのではなく、ソ連、中国(大陸、台湾、香港)、朝鮮半島、ヴェトナム情勢などの地政学において形成されたことを、江藤の言説は軽んじていると見える。実際、有吉佐和子、石井桃子、小島信夫、庄野潤三、安岡章太郎らは、江藤が視野に入れなかった中国、ソ連、第三世界、ジェンダー、子ども、老人を文学的テーマとしている。 今後はロックフェラー財団、米国国務省など、文化冷戦期アメリカの対日本文学、日本文化政策と日本文学の国際化の研究にあたり、従来、江藤淳、第三の新人を主流として描かれてきた見取り図の相対化が必要となろう。また、文化冷戦期における日本文学の国際性の問題を、アメリカ対日本の二国間の関係性に還元するのではなく、東アジアの動静などのファクターを入れ編み直すことが次の目標となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本務校の内部締め切りが早期であるため830円が次年度使用額となったが、2019年度の国際学会参加費用など年度内に使用したが学会終了まで反映されない執行もあり、全体としては問題ない。
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