研究課題/領域番号 |
17K02434
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
萩原 正樹 立命館大学, 文学部, 教授 (20250532)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 森川竹ケイ / 森槐南 / 詞律大成 / 詞律 / 詞譜 |
研究実績の概要 |
本研究は、森川竹ケイの大著『詞律大成』を、中国で編纂された諸種の「詞譜」類と比較検討し、その歴史的な価値を広く内外に知らしめるとともに、その詞牌研究が現代においてもなおきわめてすぐれた水凖にあり、今後の詞牌研究にとって大いに価値があることを明らかにすることを目的としている。 今年度は上記の研究目的のもと、関連の研究実績として一本の論文を公刊し、三本の講演を行い、一本の口頭発表を行った。 論文「森槐南的詞学―関於詞的起源―」(「成大中文学報」第64期)及び口頭発表「森槐南の詞学―詞の起源について―」(2018年12月8日第五回東亜漢籍交流国際学術会議)は、いずれも森槐南の詞学に関するものである。森槐南は、明治の漢詩壇の領袖とも言うべき人物であるが、また若年から詞を良くし、詞学に関しても造詣が深かった。彼の詞学は断片的な詩話や詞評等のほか、『作詩法講話』(文会堂書店、一九一一)の第四章「詩、詞の別」や彼の死後に雑誌「詩苑」に連載された「詞曲概論」等に見ることができる。論文及び口頭発表では『作詩法講話』の第四章「詩、詞の別」に見える槐南の詞源論について取り上げ、それがきわめて精緻な泛声説であり、また同様の主張を展開した中国の学者胡適よりも早い段階での学説であったこと等について論じた。 三本の講演は、「日本漢学的研究現状」「日本近年来的詞学研究和日中詞学交流」「日本詞学的研究現状」(いずれも詹千慧氏との共著、2018年10月に上海大学文学院及び江蘇師範大学文学院において講演を行う)と題するもので、日本における近年の漢学や詞学研究を紹介するとともに、森川竹ケイの『詞律大成』を取り上げ、その重要な価値について言及した。 『詞律大成』所収の詞牌についての初歩的な調査はほぼ終え、2018年度はその「発凡」に見える説と本文内容との関連について調査研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に行った『詞律大成』所収詞牌と、『全唐五代詞』『全宋詞』『全金元詞』等所収の現存作品すべてとの対照調査を踏まえ、平成30年度には、各詞牌における竹ケイの見解を整理していった。旧来の「詞譜」に対して、竹ケイがどのように詞体を帰納・演繹しているか、また旧来の「詞譜」に批判を加えた上でどのような新見解を提出しているか等について、細かく分析を進めていった。さらには「発凡」に見える彼の見解と本文内容とについて、万樹の「発凡」と対照させながら調べていった。この調査はほぼ終えているが、いくつか調査の足りない部分があり、これについては平成31年度の前半に調査・分析を終える予定である。 竹ケイの各詞牌に対する見解については、網羅的に表を作成すると共に、一部の優れた見解を取り上げて論文としてまとめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に行った調査を踏まえ、竹ケイの各詞牌に対する見解について、網羅的に表を作成し、今年度中かまたは来年度にホームページ等で公開したい。 また代表的な事例をいくつか取り上げた研究論文を今年度中に一~二本発表する予定である。 平成31年度は、本研究の完成年度であり、『詞律大成』未刊部分に関する研究を進め、一定の結論を得たいと考えている。未刊部分については当然見ることができないのであるから、どうしても推論に頼らざるを得ない部分があるが、単なる推測だけに終わらせず、竹ケイの作品や周囲の人々の作品の詞体や、諸種の雑誌に見えている竹ケイの詞牌に関する評語なども収集して、可能な限り未刊部分についての考証を行いたい。 また森槐南をはじめとする当時の詞人たちがどのように竹ケイに影響を与え、また逆に竹ケイから影響を受けたか等についても調べていきたい。竹ケイの影響を受けた詞人・文学者として代表的なのは久保天随であるが、天随の詞学にどのような竹ケイからの影響が見られるのか、あるいは見られないのかについて検討を行う。その上で、槐南―竹ケイ―天随という詞学の継承関係を想定することが可能であるか否かについても考えてみたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた書物が品切になるなど、予想外のことがあったために次年度使用額が生じた。最終年度の助成金と合わせ、人件費または物品費として使用したい。
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