最終年度にあたる令和元年(平成31年)度は、重点的研究テーマ「近世前期近衞家当主の和歌活動に関する総合的考察」を設定した。平成29年度・平成30年度の研究成果をふまえ、近世前期歌壇における歌人としての近衞基凞を正当に評価するとともに、「近衞基凞詠草」の資料的価値を確定するよう努めた。 具体的には、「近衞基凞詠草」の一資料である『御哥』の内容と編纂を考察した。『御哥』は八十五首を収載する。ほかの「近衞基凞詠草」、および『基凞公記』などの記録類と比較検討した結果、宝永三年より宝永七年までの近衞基凞の和歌を集め、年月の順に編纂した家集と判明した。仮名を主体とする比較的長い詞書の検討によって、近衞基凞の上﨟、侍従御方(久我通名女、一六七九―一七四八)という女性が、享保七年の近衞基凞薨去後、編纂したものと結論した。以上については、川崎佐知子「陽明文庫蔵『御哥』について」(和歌文学会関西七月例会〔第130回〕、2019年7月6日、於相愛大学・南港校舎)において単独で口頭発表ののち、川崎佐知子「陽明文庫蔵『御哥』について」(『立命館文学』第664号、 2019年12月、490ー502頁)に公表した。 最終年度の研究を通して、『御哥』のような家集が近世の近衞家では基凞だけに残るという事実を発見できた点は意義深い。近衞基凞が、近衞家において和歌の模範として尊重されていたことにほかならず、歌人としての評価を確認することができた。さらに、「近衞基凞詠草」が、たんなる和歌の集積ではなく、歌稿、歌集稿、歌集など、様々な段階の和歌資料を含み持つ、きわめて価値の高い資料群であることを確かめることができた。ここに、この研究の重要性がある。 研究期間全体を通じて、「近衞基凞詠草」を徹底して調査し、近衞基凞の和歌活動を多角的に追究した。未整理資料の資料的構成を明確にし、近衞基凞の歌人としての側面を提示できた。
|