研究課題/領域番号 |
17K02437
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研究機関 | 石川工業高等専門学校 |
研究代表者 |
高島 要 石川工業高等専門学校, その他部局等, 客員研究員 (80124022)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 大東詩集 / 大東詩集詩人姓名 / 舟木藻雅堂 / 漢詩総集 / 近世漢詩 |
研究実績の概要 |
1,前年度までに『大東詩集』伝本11種、即ち都立中央図書館蔵加賀文庫本、中之島図書館蔵石崎家旧蔵本、龍谷大学図書館蔵写字台文庫三冊本、同一冊本、尼崎市立地域研究史料館蔵堀江家蔵書本、内藤記念くすり博物館蔵大同薬室文庫本(以上天明二年版三巻本)、臼杵図書館蔵稲葉家旧蔵本(以上天明二年版七巻本)、早大図書館本(寛政十一年版七巻本)、東北大学図書館蔵狩野文庫本、宮城県立図書館蔵本、福岡大学図書館蔵中野文庫本(写本)の11種の伝本について、類型別に整理し伝本を系統立て、Ⅰ天明二年三巻本、Ⅱ天明二年七巻本、Ⅲ寛政十一年七巻本の3系統に整理して、この順に増補されたものと推定したが、原版の舟木藻雅堂版による唯一の七巻本として確認できる伝本臼杵図書館蔵稲葉家旧蔵本が『大東詩集』の基本となるものであることを改めて確認した。 2,これを承けて、『大東詩集』の基本となる本文を、臼杵図書館蔵稲葉家旧蔵本七巻本を底本とし定めることに変更し、これによって校定本文及び本文校異を行った。本年度は、伝本間において見られる異同について本文校異を行い、これを『大東詩集』電子化テキストに反映し、総作品数697首とひとまず確認した。 3,文学史的研究として、前年度に引き続き所収詩人について、その数を266名とひとまず確認し、その伝記的研究を実施した。その際、所収詩の出処、他の詩集との重なり等の調査を進め、『大東詩集』所収詩の位置づけを行うこととした。例えば既に密接な関係をもつものに『蓬蒿詩集』等があることを確認しているが、更に所収詩人の別集や他の総集との関わりの調査を進めた。直接関わるような他の詩集は見出しにくいが、それがかえって『大東詩集』の独立的性格を示す可能性につながるのではないかと想定するまでに至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、基礎的研究と文学史的研究の2つの方法よって実施するこことしている。第4年度は基礎的研究のうち、第一には『大東詩集』の底本と校異本文の整定という基礎的研究、第二には、近世漢詩史における『大東詩集』の文学史的位置づけについて考察する。特に『けん園録稿』等の比較検討を通して、古文辞派詩壇の中での本書の位置づけを考察する。その際、『金蘭詩集』『麗澤詩集』他の漢詩総集(『日本詩選』等)と比較検討すること、及び一書肆による編纂物である特質を検討することで、近世中期漢詩史における本書の意義を考察するとしている。これを踏まえた上で、 1,基礎的研究においては『大東詩集』の底本と校異本文を確定した。編者舟木藻雅堂による稲葉家旧蔵本七巻本を底本として定め、所収詩数697首を確認した。 2,文学史的研究では、『大東詩集』所収詩人について、266名を確認した。 3,文学史的研究では、『大東詩集』所収作品の出典的研究を開始し、「大東詩集詩人姓名」に挙がる別集、またそれ以外の各詩人の別集や近世期の総集等関連すると思われる他の詩集の掲出に努めた。実施計画に照らして、1は底本の確定、伝本間校異を終えたこと。2・3、は、文学史的研究の基礎資料となる作品の出処研究を開始したことで一定の成果を得た。同時に、関連するかと想定される別集、総集等他の詩集との照合、検討の調査が特に必要となった。これを含めて研究計画上では着実に計画に沿って研究を実施しているものであるが、新たに生じた資料調査は重要で広範なものとなる。全体計画に照らすと、今後は特に関連する各詩集との照合を含めた文学史的研究を実効的に速める必要がある。以上、計画に照らして、やや進行が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、2つの方法で展開され、また2つの段階的な計画のもとに実施する。第一には、『大東詩集』の本文研究すなわち伝本の整理及び本文整定と校異本文の作成である。これに基づいて、電子化テキストを作成するという、本文研究を中心とする基礎的研究である。第二には、『大東詩集』中の各所収詩人の伝記的研究など詩人の面からの考察、また近世中期の漢詩総集編纂の意義の考察等、総じて漢詩文学史的研究である。順序としては、原則的に、研究のはじめ2年度は基礎的研究を中心に行っており、後半2年度はその基礎的研究の成果をふまえて、文学史的研究を進めるものとした。3及び4年度めにおいては、基礎的研究のまとめを行い、それに基づいた文学史的研究の、詩人の伝記的研究、作品の出処研究等を実施した。このうち、文学史的研究につながる基礎的研究と所収詩の出処に関わる調査研究が進行中である。これを承けて、前年度に引き続き次の点に留意して研究の目的を達成させたい。 1,所収詩作品の出処を探索することや所収詩人の伝記的研究を進めることで、『大東詩集』の成立事情や編纂の意義の研究に及ぶこと。特に、所収詩人に想定される詩人群の分析を通して、「詩作の場」や結社、版元との関係等所収作品が製作された事情を考察すること。ひいては、本詩集が佳作を収集した詞華選であるか、あるいは別の目的や意義を有したものか等の成立事情を考察すること。 2,その際、系統整理した『大東詩集』伝本研究の成果、作成済みの「詩人索引」を活用すること。また「『大東詩集』詩人姓名」や、関連が想定される別集・総集を古典籍データベースの資料等の活用によって広範に探索すること。 3,『大東詩集』についての新たな課題(例えば近世末から近代にかけてなど後世への影響について)などに関して、可能な限りの資料を収集すること。 4,引き続き『大東詩集』の新たな伝本の発掘に努めること。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)前年度において伝本の調査研究のうち、直接調査をすすめることとした早稲田大学図書館蔵本、内藤記念くすり博物館蔵本、大阪府立中之島図書館本、東北大学図書館蔵本について先に繰り延べていた直接調査が、社会的事情及び各機関等の事情によりにより実施を延期した。また新たに、既定の計画にあった文学史的研究に伴う『大東詩集』関連の別集・総集の実見調査が同様の事由により実施を延期した。これにより調査旅費、及び撮影用資材費等を次年度実施に合わせて使用することとした。また、前年度同様、物品費のうち一部書籍を他機関図書館資料の利用等をもって当面の必要が充たされたものがある。また主として文学史的研究の進行の遅延により、調査計画、発表計画の変更が生じた。以上の事由による。 (使用計画)次年度にあっては、年度計画にある活動・作業に加えて、以下の活動・作業を補充して実施する。「『大東詩集』諸伝本の収集と実見調査」及び「『大東詩集』関連の別集・総集の実見調査」について、直接調査によって書誌情報などを含めた詳細な調査を実施する。また、調査及び資料整理の作業を円滑に進めるためにデータ整理用のシステムの更新、複写・撮影等のための機材を、一部更新または補充する。併せて報告について当初計画以上に拡大して充実させることにあてる。
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