1、伝本の所在と系統整理について 『大東詩集』の伝本11種について、都立中央図書館蔵加賀文庫本、中之島図書館蔵石崎本、龍谷大学図書館蔵写字台文庫三冊本、同一冊本、尼崎市立地域研究史料館蔵堀江本、内藤記念くすり博物館蔵大同薬室文庫本(以上天明二年版三巻本)、臼杵図書館蔵稲葉家本(天明二年版七巻本)、早大図書館本(寛政十一年版七巻本)、等の全てで11種の伝本について、Ⅰ天明二年三巻本、Ⅱ天明二年七巻本、Ⅲ寛政十一年七巻本の3系統に整理して、この順に増補されたものと推定した。舟木藻雅堂版による唯一の七巻本である臼杵図書館蔵稲葉家旧蔵本が『大東詩集』の基本となるものである。臼杵図書館蔵稲葉家旧蔵本七巻本を底本とし定め、これによって校定本文及び本文校異を行った。これを『大東詩集』電子化テキストに反映し、総作品数697首と確認した。一方で、早大図書館本(寛政十一年七巻本)の増補部分を明記した本文を追加することとした。 2、文学史的研究について 基礎研究として、「詩人姓名」を翻刻し「詩人名索引」を作成した。以上の基礎研究をふまえて『大東詩集』所収詩人266名を特定した。詩人別の所収作品数を確認した。入集数が多数の詩人は、井上蘭台(井通煕)(18首)、西川瑚(18)、井上四明(井潜)(17)、内田叔明(14)、松崎惟時(12)等であり、ほぼ半数の詩人は1首のみの入集である。編集事情については、最多数入集の西川瑚の周辺に関わる詩人群、熊阪邦・秀父子周辺の詩人群等、採択事情を想起させる詩人群を確認した。例えば西川瑚の別集である『蓬蒿詩集初編』は顕著に関わりがみられる詩集である。『大東詩集』は、各地の詩人結社等との関係において出版された可能性が強い。 『大東詩集』の伝本として、天明二年七巻本の他の伝本の発掘、入集詩の典拠や詠作事情を探索して編纂事情を解明することが、本研究の発展的課題となる。
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