研究課題/領域番号 |
17K02439
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研究機関 | 宇部工業高等専門学校 |
研究代表者 |
赤迫 照子 宇部工業高等専門学校, 一般科, 准教授 (70452612)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 浜松中納言物語 / 写本 / 書入 / 本文 / 校本 / 享受 / 和学者 / 物語 |
研究実績の概要 |
今年度は写本調査に取り組んだ。調査先は岡山大学附属図書館小野文庫・東海大学付属図書館桃園文庫・東京大学文学部国語研究室・国文学研究資料館である。 国文学研究資料館蔵のマイクロフィルムで調査した彰考館本(水戸藩松平斉昭旧蔵)については、「国立国会図書館蔵『浜松中納言物語目録』の依拠本(二)」(『宇部工業高等専門学校研究報告』第64号 2018.3)にて本文・書入の特徴を報告した。該本はD類/乙類第三種本ではあるが、校訂者村上真澄による他本からの補入がある。その補入本文はいずれも、近世前期の善本が属するA類/甲類本の本文であった。D類/乙類第三種本にA類/甲類本文の補入を確認したのは、これが初めてである。 さらに該本の丁数・裏表と『浜松中納言物語目録』記載の依拠本の丁数・裏表が一致することも、具体的に指摘した。該本の上部余白に掲出された語句と『目録』掲出語句も、多く一致を見せている。しかしながら、該本が小山田与清『浜松中納言物語目録』の依拠本である可能性は低い。そのように考察するのは、『彰考館図書目録 附焼失目録』に注記「小山田本」がないので該本は小山田与清献納本ではないこと・該本に書肆須原屋茂兵衛の仕入印が存することによる。そこで、現時点では「彰考館が『浜松中納言物語目録』依拠本を失う→依拠本の姿を残した該本を書肆から入手した」と考えている。 村上真澄は石見浜田藩士で、本居大平に学んだ。東京都立中央図書館蔵の村上真澄『古文類葉』を調査したところ、『浜松中納言物語』享受の様相が確認された。『古文類葉』寄贈主は石見出身の福羽逸人で、寄贈年は明治41年である。養父で国学者の福羽美静(天保2年- 明治40年)旧蔵書と思しい。村上真澄及び『古文類葉』については今後、調査結果を報告する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
体調不良により年度途中で所属機関の校務分掌の一部を辞し、担当の仕事を可能な限り抑えて、他の時間は通院と休養に充てた。そのため、当初計画していた調査のための出張・翻刻作業・データ処理に取り組めなくなってしまった。 そのような中でも、購入した図書を参考に、新校本作成のレイアウト検討には努めた。 また、享受の問題として、彰考館本(水戸藩松平斉昭旧蔵)の校訂者村上真澄の調査へと展開したことも、新校本作成の遅れの原因となってしまった。ただし、これはA類/甲類本との関わりへと繋がる重要なものなので、今後も調査に取り組みたい。
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今後の研究の推進方策 |
通院先と相談しながらであるが、授業担当のない夏季に、集中的に翻刻作業とデータ処理に取り組み、遅れを取り戻す。 特に、各本にある書入の内容を体系的にまとめて一覧を作成する。これまでもある程度共通する書入があり、それらが書写関係の反映であることは論文にて報告してきたが、点描に過ぎなかった。平成29年度は調査の出張を控えたとはいえ、それでも約10点を見ることができ、写本悉皆調査も終わりが見えてきた。そこで、もう少し後に取り組む予定であった書入の体系づけに着手する。同時に、新校本において、どのようなかたちで書入の内容を表示していくのかを早急に検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は体調不良による。平成29年度に計画していた調査(関東・東海方面)が全て実施できなかった。また、翻刻作業とデータ処理も停滞したため、新たな写本複写の購入にまで至らなかった。物品費については、図書整備を順調に進めて予定通りに使用した。 生じた次年度使用額は主に、複写不可の写本を調査・翻刻するための出張滞在費に充てる。複写不可の所蔵機関は既に把握しているので、速やかに日程調整を行う。
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