2018年度の説話文学会の大会(2018年6月16-17日・於法政大学)において、シンポジウム「判官物研究の展望」にパネリストとして登壇、研究発表「『御曹子島渡り』と室町文芸」を行った。新出の室町物語の絵巻『御曹子島渡り』を素材とし、中国明代の日用類書の図様が奈良絵本の挿絵に転用されてゆく実態を論じ、併せて、作中に反映された女性の教養のすがたについても論及、作品の背後にある学芸の具体相を検証した。成果は『説話文学研究』第54号(2019年7月)に公刊予定である。 ワークショップ「和漢の故事人物と自然表象」(2018年12月23-24日・於東京大学東洋文化研究所)において、研究発表「故事を遊ぶ―戯画図巻の時空―」を行った。狩野昌運筆『異代同戯図巻』など、17世紀に集中して狩野派の戯画が制作されたが、これらは詞書がないため、文学研究の視点からは殆ど論じられていない。しかし、作品群にはやはり明代版本から摂取した新たな知が横溢し、狂歌師や近世初期風俗画との交渉の痕跡が看取されるのであり、本発表においてはその具体例を指摘するとともに表象の手法を解き論じ、作品成立の背景や、戯画の幕末明治期の展開を考察した。 さらに「チェスター・ビーティー・ライブラリィ蔵絵巻・絵本の最新研究」(2019年3月7-8日)において、研究発表「異形を描く物語絵―その表象と展開―」を行った。とくに室町物語絵巻『俵藤太絵巻』に弥勒信仰を看取し、中世特有の弥勒下生の信仰から、室町文芸を照射する重要性を論じた。 戯画図巻をめぐっては、国際日本文学研究センターのプロジェクト「投企する古典性―視覚/大衆/現代」平成30年度第6回研究会にて研究発表「狩野派の戯画―その生成と展開―」を行い、明代版本の戯画への受容の諸相を論じた。 天理大学など諸機関の奈良絵本の調査研究も遂行、AAS参加により、海外の研究情報も摂取し得た。
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