研究課題/領域番号 |
17K02443
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長島 弘明 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (00138182)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 上田秋成 / 白話小説 / 国学 / 『六帖詠草』 / 『呵刈葭』 |
研究実績の概要 |
研究の二年目に当たる本年は、次のような成果を得た。 1.通俗小説である浮世草子からやや高踏的な小説である読本への転進は、『雨月物語』の知的要素を形成している白話小説、国学への関心の深まりが大きな理由の一つである。周辺人物との関係で言えば、勝部青魚・小島重家・冷泉家・建部綾足等、様々な人物の影響が考えられる。しかしやはり、秋成が大火後に医者になるために通ったとおぼしい医学塾の主で、白話研究家である都賀庭鐘との関係、また明和八年(一七七一)に秋成が入門した賀茂真淵門下の加藤宇万伎との関係が、この転進にもっとも大きな影響を与えていることを、改めて確認した。ただし、『雨月物語』の執筆・推敲期間と、この二人との邂逅は、時間的にどちらが先か微妙であり、今後、それを確定する必要がある。 2.蘆庵の自筆本『六帖詠草』については、そこに出る人物の名前を整理しつつあるが、秋成の歌文中に名が見える人物が相当いる。秋成と京都歌壇の関係は、蘆庵人脈を通じてのものが多い。ただ、秋成は堂上歌人とも一定の関係を維持しており、かなり斬新に見える秋成の歌も、必ずしも堂上和歌の歌風を否定するものでない事が明らかになった。 3.宣長との論争を収録した『呵刈葭』を詳しく検討した結果、秋成の相対的思考は、例えば日神(太陽)について神話の範疇と天文学の範疇で別個に考えようとしている事に由来すること、それが天文学の知見さえも神話の論理に包摂してしまう宣長と決定的に異なることを明らかにした。この成果は、平成三十年度の鈴屋学会の公開講演会で発表した。 4.中国明末の文人馮夢竜との比較研究、および前年から持ち越した朝鮮時代の文人との比較研究は、秋成が馮夢竜のどの著作を読んでいるかを考察する所までは進んでいるが、中国や韓国の研究者との本格的な意見交換は、来年度の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の交付申請書に記した、二年目の研究実施計画の4つのテーマの内、①浮世草子から読本への展開、②秋成の和歌と『六帖詠草』、③国学の特質に関しては、新事実を明らかにするなど、一定の成果を上げている。④の中国文人との比較、および前年度から持ち越した朝鮮時代文人との比較は、やや遅れ気味であるので、中国・韓国の研究者とのワークショップ等の可能性を、来年度早々に考えたい。
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今後の研究の推進方策 |
三年目の来年度は研究の最終年度にあたるので、それを念頭に置きつつ、来年度の研究推進の方策について簡潔に記したい。 1.煎茶については、特に売茶翁・大枝流芳・村瀬栲亭らの文人との直接・間接の関係を考えたい。特に、秋成の母方の叔父(伯父)に当たる樋口道与は、大枝流芳の香道の弟子であり、煎茶のたしなみもあることが想像されるので、秋成の肉親であることがわかっているごく数少ない人物であるこの人の事跡を詳細に調べたい。 2.秋成には画家の友人が多い。画賛を合作したり、小説等の挿絵を描いてもらったりしている呉春・素絢・南岳・文鳳・東洋・常政らとの交流の実態をまず詳細に追究する。それと同時に、これらの画家は俳諧や和歌・国学などに傾倒していた文人でもあるので、画以外の学芸の接点を見出したい。 3.三年間の総括として、秋成の文学、また秋成の学芸の形成と展開に果たした友人知己の影響を全体として明らかにし、京阪の文化人ネットワークの中における秋成の位置を、改めて明らかにしたい。
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