第3年次で最終年に当たる本年は、次のように研究を進め、成果を得た。 1. 煎茶については、親しい友である書家・漢詩人の村瀬栲亭との関係や、秋成が茶器の制作を依頼した高橋道八との関係を検討し、煎茶を特別な儀礼としてではなく、日常性の理念において捉える、秋成の思考を明らかにした。また、売茶翁、大枝流芳の茶書と秋成の『清風瑣言』等を比較し、彼らから大きな影響を受けていることを明らかにした。 2. 秋成の画賛資料を網羅的に収集・整理し、秋成と画家の関係、あるいは賛の和歌・発句と画との関係について考察した。秋成の画賛は呉春との合作が多いが、作品としての完成度を追求しているものの他、依頼品、商品として製作されるものがあることを明らかにした。また、発句の賛よりも和歌の賛が多いことを明らかにし、その理由は、秋成の画賛の画家で、俳画に堪能な者が少ないことによると推測した。また、収集した画賛資料の目録化を試みている途中である。 3. 秋成自身が複数のジャンルにわたって活躍する、いわゆる「文人」であるが、同じく多領域で活躍した秋成周辺の友人や・知人―例えば、蕪村・呉春・十時梅厓・桂宗信・村瀬栲亭・砺波今道らの業績と、秋成自身の業績を比較した。その結果、彼らは第一義的には画家や工芸家や書家であるが、漢学・国学を問わず、かなり本格的に学問にかかわるか、そうでない場合であっても、学問に強い興味を示していることがわかった。そうした、江戸の「文人」とは違う、これら上方「文人」の、独特な学問への傾斜を明らかにした。
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