研究課題/領域番号 |
17K02444
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
湯浅 佳子 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00282781)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 近世軍書 / 戦国軍記 / 近世文芸 / 写本軍書 / 出版 / 歴史 / 仮名草子 / 室町軍記 |
研究実績の概要 |
本研究は、近世軍書の多種多様な諸本のあり方に注目し、本文の生成・展開と文芸化について、次の三つの目的をもって考察するものである。①写本の本文比較から、新たな本文が生成される経緯と背景を探る。②板本軍書の出版意図、出版物としての特徴を明らかにする。③近世軍書が後代の軍書・文芸類に与えた影響を明らかにする。以上についての平成29年度の研究成果は次のとおり。 ①後北条氏を中心とする軍書『北条記』は、室町軍記『永享記』を基本とし、加筆増補され、数種の異本が写本で流布していることから、これを研究対象の一つに選んだ。各系統の本文を比較し、各系統の特徴を解明するにあたり、まず最も早期の成立とされる六巻本系から刈谷市立図書館村上文庫蔵『東乱記』を善本として選び、本文を入力した。十巻本、九巻本、五巻本(二種)系の善本の本文も入力作業中である。 ②『北条記』と同時期の元和・寛永~寛文期に、主に写本で流布した関ケ原合戦に関する軍書類がある。当代における近世軍書の成立と流布という視点からこれに注目した。まず、関ケ原合戦軍記の嚆矢である太田牛一著『内府公軍記』の諸本をリストアップし、本文比較を行い、系統付けをした。次に、太田牛一著『内府公軍記』の影響下にある関ケ原合戦関連書『関ケ原始末記』『濃州関ケ原軍記』『慶長記』『関ケ原軍記』等の夥しい数の写本類をリストアップし、諸本調査し、本文比較のうえで系統付けを行った。また、関ケ原合戦軍書の一到達点とされる植木悦著『慶長軍記』について、寛文三年本と寛文八年本の翻刻を行った(印刷中)。さらに③に関連しては、偽書の板本『石田軍記』への展開や、仮名草子『大坂物語』との関係について考察中である。なお②については、研究分担者として参加中の基盤研究B「戦国軍記・合戦図屏風と古文書・古記録をめぐる学際的研究」(課題番号:16H03480、堀新氏代表)との関連研究である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①『北条記』関連諸本の調査、リストアップ、系統付けはほぼ終了した。現在は各系統の本文入力の作業中である。『太閤記』等の周辺軍書との影響関係についても考察中である。 ②当初は万治~元禄期頃成立の近世軍書諸作品の調査を予定していたが、『北条記』諸本の成立した元和・寛永~寛文・延宝頃に時期を合わせ、同じく写本として生成・流布した関ケ原合戦軍書類に注目することとした。太田牛一『内府公軍記』、酒井忠勝撰『関ケ原始末記』を始発とする軍書類のリストアップはほぼ終了した。これまで、内閣文庫、早稲田大学図書館、東京大学総合図書館、慶応大学図書館、岡山大学附属図書館池田家文庫、金沢市立図書館、東北大学附属図書館等で諸本調査を行い、現在のところ、牛一著『内府公軍記』は写本・古活字版で3系統の諸本を22本、『関ケ原始末記』の諸本を13本確認した。それをもとに、本文比較と諸本の系統付けを考察中である。それによると、『内府公軍記』『関ケ原始末記』に加筆増補した系統の作品群があり、やがて『慶長軍記』に展開すると考えられる。それとは別に、牛一『内府公軍記』を基本に加筆増補された『濃州関ケ原軍記』系の一群がある。さらに偽書『石田軍記』に関連する系統本の存在も確認できた。それらの調査の経過報告を、2017年7月14日、国文学研究資料館における第175回仮名草子研究会(日本近世文学会の分科会例会)において「『内府公軍記』『関ケ原始末記』関連書の諸本研究」として研究発表を行った。また植木悦『慶長軍記』の翻刻を井上泰至氏を中心とする研究メンバーで行った。『関ヶ原軍記の始発『慶長軍記』を読む』(勉誠出版)として近日刊行予定である。 以上のように、①と②との研究を併行させ、近世軍書研究として相互関連させつつ進めている。③の後代の軍書・文芸作品への影響については、偽書『石田軍記』や仮名草子『大坂物語』との関係を考察中である。
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今後の研究の推進方策 |
①『北条記』関連書の研究については、各系統の本文入力を終える。その上で、系統間の本文比較を行い、語句から文表現のレベルに至るまでの相違箇所を抽出する。そこから、系統によって現れる特有の表現や、人物・場面描写のされ方、話の構成方法、書き手の視点、叙述の特徴や傾向を分析し、各系統の本がどのような意図で作られたのかといった系統の制作事情を類推する。 ②関ケ原合戦軍記の研究については、引き続き諸図書館・文庫での諸本調査を行い、本文比較による分類と系統付けを行う。その上で、太田牛一『内府公軍記』の諸本・牛一『内府公軍記』を始発とした軍記の系統付けを行い、それら軍記における本文がいかに生長・展開し、『慶長軍記』といった歴史読み物へと結実するのかを考察する。諸本調査は、岡山大学附属図書館池田家文庫・尊経閣文庫・東京国立博物館・内閣文庫・小浜市立図書館・神宮文庫・閑谷学校・宮城県立図書館伊達文庫・京都大学図書館・京都府立京都学歴彩館等で行う予定。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた諸本調査のための旅費を都合により実施しなかったため。平成30年度の旅費として使用する。
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