研究課題/領域番号 |
17K02448
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
渡邊 英理 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (50633567)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 開発/再開発 / 公共性 / 日本文学 / 中上健次 / 崎山多美 / 戦後文学 / 労働力移動 |
研究実績の概要 |
研究二年目にあたる今年度は、中上健次の「(再)開発文学」の考察を進め、そこに展開される多様な「公共性」の思想を解明した。また中上文学における被差別部落の(再)開発の表象分析に加え、崎山多美の文学を対象に沖縄の「基地の街」における(再)開発の表象分析に着手した。 中上文学に関して、まず『戦後日本を書き換える』第三巻「高度経済成長の時代」(臨川書店、2019年)に論文「開発と公共性」を寄稿した。本論文では、路地解体期の中上の重要な同伴者のひとり詩人・吉増剛造の詩との引用関係とそこから生じる言語の多元性という「公共性」を指摘し、その多元的な言語を媒介に提示される(再)開発が依拠する統治としての「公共性」とは別様の「公共性」の思想を解明した。また吉増の詩の世界と展覧会評を『図書新聞』3366号(18年9月)に寄稿した。さらに『翻訳とアダプテーションの倫理』(春風社、19年3月)に論文「動物とわたしのあいだ」を寄稿した。本論文では、中上文学の詳細な分析を通じて近代の所有権と不可分の個人や人間中心主義とは異なる「公共性」たる動物の群れの思想を明らかとした。 崎山文学に関しては、『アジアの戦争と記憶』(勉誠出版、18年6月)に論文「沖縄から開く東アジア像」を寄稿した。本論文では、崎山文学が再開発の統治の「公共性」に対して記憶の「公共性」という問題系を提示し、「アジア」との連帯の思想を展開していることを解明した。また2019年度社会文学会秋季大会・大会シンポジウム「現代沖縄文学のたくらみ」で、作家・崎山多美氏の講演を受けての提題者をつとめ、発表「開発と言葉」を行ない、崎山氏らと討議を行なった。 なお戦後の広島の「復興」という(再)開発をめぐる論集『忘却の記憶 広島』に関する書評を『図書新聞』3383号(2018年1月)に寄稿、同書評は同紙掲載の代表的な書評として同社webに転載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発/再開発をめぐる日本語文学の多角的な考察をめざす本研究では、比較対照研究を重要な柱とする。今年度は、中上健次に加え崎山多美の文学の考察を行い、被差別部落の開発/再開発の表象と沖縄の「基地の街」の開発/再開発の表象との比較対照研究に着手することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
以下の4つの方向性で研究を進めていく予定である。 1、これまで行ってきた中上健次の文学の分析を総合化し、その「(再)開発文学」を高度経済成長期以後の「戦後文学」として定位する。 2、沖縄文学の作家、崎山多美の「(再)開発文学」の考察を進め、ポスト冷戦・グローバリゼーション期の「戦後文学」として定位をめざす。 3、上記二つの作業を通じて、本土の被差別部落の開発/再開発の表象と沖縄の「基地の街」の開発/再開発の表象の比較対照を行い、戦後日本の「(再)開発文学」の一側面を解明する。 4、これまで明らかとした戦後日本の「(再)開発文学」を対照化する他の文学や思想を発掘し、調査考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定していた戦後日本の「(再)開発文学」を対照化する他の文学や思想の文献調査は一部にとどまり、大部分を次年度に繰越しをしたため。
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