研究課題/領域番号 |
17K02448
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
渡邊 英理 静岡大学, 人文社会科学部, 准教授 (50633567)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | (再)開発文学 / 崎山多美 / 中上健次 / ジェンダー / 言語 / 記憶 / 戦後文学 |
研究実績の概要 |
今年度の主な達成は、崎山多美、中上健次らの「(再)開発文学」のジェンダー論的考察にある。両者の文学における再開発表象をジェンダーの変数を重視して分析した。まず、崎山多美について、『社会文学』50号(特集 現代沖縄文学のたくらみ、2019年8月)に「再開発と言葉 : 崎山多美『クジャ幻視行』「孤島夢ドゥチュイムニ」「クジャ奇想曲変奏」」を寄稿し、韓日記憶ワークショッププログラム「グローバルな記憶空間としての東アジア:再現と遂行性」@韓国ソウル西江大学(2019年9月)にて、「現代沖縄文学における記憶の表象と行為遂行性:崎山多美の文学から」を発表した。中上健次については、コロンビア大学 Weatherhead East Asian Institute 70th Anniversary Event International Workshop: New Directions in Japanese Studies (2019年11月)にて、“Nakagami Kenji as “Contemporary Literature”を発表した。さらに経済成長期の「開発文学」を変奏する「(再)開発文学」、梁石日・中上紀『タクシーガール』を論じた「亀裂や分断で「迷走」するアジア的身体の現在形」を『週刊金曜日』(2019年8月30日号)に寄稿した。これらの論考・発表では、再開発の文脈たるグルーバル資本と国家の運動性に抗する「公共性」の創造/想像に、ジェンダーと交錯する身体や声による記憶表象や、複数的な「群れ」の潜勢力が寄与していることを示した。 また上述の具体的なテクスト分析とともに、「(再)開発文学」を支える言語の問題系を文学理論における言語論として位置づけ検討した。同成果は、編著書『クリティカルワード 文学理論』(フィルムアート社、2020年3月)として出版した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルスの影響で、一部の国際会議、研究会、調査等の実施が不可能になったものの、研究の成果としては概ね順調に進捗している。崎山多美の「(再)開発文学」について、その中核となるテクスト群の分析を行うことができた。また、中上健次の「(再)開発文学」について、主要テクストの考察が終わり、総合化に着手することができた。また、これらの成果について、雑誌等に寄稿、国際会議等で公表できた。現在、中上の「(再)開発文学」に関する成果は単行本化の計画を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度にあたる次年度は、研究の総合化を進める。その中心は、本研究の柱である中上健次の「(再)開発文学」研究であり、今年度までの成果を統合し精査と検討を加え、総合化する。具体的には、中上の「(再)開発文学」研究の成果を単行本として公刊し、その成果の果実を世界に発信し社会に還元する。その際、中上の「(再)開発文学」研究を通じて、「戦後文学」の史脈を再構築するとともに、「戦後文学」の思想史的検討を行い、その現在形や可能性を描出することに努める。加えて、1970年代末から80年代初頭の中上の「(再)開発文学」と「現代思想」との交渉の有り様を検討するとともに、ポスト高度経済成長期の「現代文学」および「現代思想」の可能性を中上の「(再)開発文学」のなかに探求する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響で、2019年2月3月に予定されていた複数の国際会議、研究会、調査等の実施が不可能になったため。残額は、次年度に予定されている国際会議、研究集会などの旅費として使用予定である。
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