研究課題/領域番号 |
17K02457
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
細川 光洋 静岡県立大学, 国際関係学研究科, 教授 (60442480)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 吉井勇 / 近代短歌 / 戦中疎開日記 / 戦時資料 |
研究実績の概要 |
本研究は、吉井勇の戦中疎開日記資料をもとに、後期歌集『寒行』『流離抄』の成立背景を明らかにし、勇と京都文化人たちとの交友の文化史的意義を検証するものである。研究二年目となる平成30年度は、疎開地である八尾(富山市)に実地調査に赴いて、日記の内容を跡づけるとともに、関係者への聞き取りを行った。 本年度において特筆すべきは、疎開先である富山の地元紙「北日本新聞」の一面並び社会面で研究成果が大きく紹介されたことである(平成30年8月1日朝刊)。日記の記述に昭和20年8月1日の「富山大空襲」についての記述があり、文学者の遺した貴重な証言として地域史家からも高い評価を受けた。これを機縁として、同紙で8月より3月まで16回にわたり「吉井勇と高志びとたち」を連載し、また、秋には八尾町文化協会の招きで「特別講演」(11月24日、八尾コミュニティーセンター)を行った。同文化協会並びに高志の国文学館、北日本新聞社の協力を得て、多くの貴重な文献や証言を得ることが出来た。研究を推進する足場を作ることが出来、研究成果の地域への還元を行うことが出来たという意味においても手応えのある一年であった。 実地調査をもとに翻刻日記に校注・解題を附し、静岡県立大学国際関係学部紀要『国際関係・比較文化研究』第17巻第1号(2018.9)に、「吉井勇の戦中疎開日記(中)――「續北陸日記」抄1」を発表している。終戦後京都移住までの疎開日記(下)については、引き続き今年度の同「紀要」への掲載発表の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに、予定していた疎開日記の翻刻を終え、実地での調査も順調に行うことが出来ている。京都府立京都学・歴彩館所蔵の書簡資料に加え、神奈川近代文学館所蔵の正岡容書簡についても翻刻調査を続けている。日記の記述を、歌作・読書・来信などの一覧表にまとめ直し、初出誌(紙)にあたる作業を並行して行っている。戦後の歌集に収められることのなかった戦時下の短歌の初出調査という次の段階に進みつつある状況である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を進める中で、これが単に文学者の一資料ではなく、地域文化史・戦時史の貴重な記録であることが明らかになってきた。所蔵先や関係遺族との協力を得ながら、これを広く周知し、今後に残る形でまとめていきたいと考えている。 日記の記述を一覧表に起こし、歌作・読書・来信記録を一目で確認できるものとしたい。また、その記述をもとに、初出にあたって埋もれている戦時下の歌を発掘し、吉井勇という歌人が時局にいかに処したかを論文としてまとめて行く予定である。 前年度に続いて、京都大学人文研歴史班(高木博志教授)のメンバーとなり、当時の京都文化人たちと勇の交友やその背景についての知見も多く得ることができている。疎開前後の京都での生活を明らかにしていくことを次の課題としている。
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次年度使用額が生じた理由 |
30年度に購入予定であった書簡資料約30点の購入を今年度にまわし、若干の繰り越し分が生じた。繰り越し分については、資料購入並びに富山・京都・高知等での調査を行う費用として充てる予定である。
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