研究課題/領域番号 |
17K02457
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
細川 光洋 静岡県立大学, 国際関係学研究科, 教授 (60442480)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 吉井勇 / 近代短歌 / 戦中疎開日記 / 戦時資料 |
研究実績の概要 |
本研究は、吉井勇の戦中疎開日記資料をもとに、後期歌集『寒行』『流離抄』の成立背景を明らかにし、勇と京都文化人たちとの交友の文化史的意義を検証するものである。令和元年度は、前年度までの富山での調査(聞き取りを含む)をふまえ、現地関係者の所蔵する資料の調査を精力的に行った。 特に、富山八尾での吉井勇の仮寓先であった民謡詩人・小谷契月のご遺族より、勇との生活にふれた未発表の詩歌ノート・原稿の提供を受けたことは、大きな収穫であった。これらの記述を勇自身の日記と照らし合わせることで、疎開生活の実態もより明らかなものになっていくと考えられる。このノートの翻刻をもとに、12/1に高志の国文学館で県民講座「吉井勇と高志びとたち-疎開日記をもとに」を行った。 また、日記より明らかになった決戦歌集『神杉』について京都学・歴彩館でさらに調査を行ったところ、初稿が完全な形で所蔵されていることが判明した。決戦歌集の存在が確認されたのは、斉藤茂吉の『萬軍』についで2例目となり、「幻の歌集」として共同通信社により報道されている(2020.1.27)。 終戦時までの疎開日記「續北陸日記」の翻刻・解題は、静岡県立大学国際関係学部紀要「国際関係・比較文化研究」第18巻第1号(2019.9)に、「吉井勇の戦中疎開日記(下)-「續北陸日記」抄2」として発表している。疎開先に赴く前の昭和19年の戦中日記「洛東日録」の翻刻も終え、今夏の「紀要」への発表準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
疎開日記の翻刻を終え、終戦後の「宝青菴日記第一巻」の翻刻にも着手した。富山の文化人で「高志」主宰者である翁久允の遺族のもとから、翁宛吉井勇書簡がまとまった形で見つかり、勇の富山行きの事情が明らかになった。また、日記の記述から「幻の決戦歌集」であった『神杉』の原稿発見に繋がったことは思いがけない収穫であった。八尾疎開時代の埋もれていた資料が、昨年の新聞連載後に地元でも発掘されている。 戦中の日記の記述を歌作・読書・来信などの一覧にまとめ、初出誌(紙)に当たる作業を継続して行っているが、新型コロナの影響で調査は一時見合わせている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を進める中で、吉井勇の戦中疎開日記が単に文学者の一資料ではなく、地域文化史・戦時史の貴重な証言記録であることが明らかになってきた。関係者や遺族の協力を得ながら、日記の記述を一覧表に起こし、一目で確認できるものとしたい。併せて、公刊の準備を進めていく予定である。 一昨年度より、京都大学人文研歴史班(高木博志教授)のメンバーとなり、戦争当時の京都文化人たちの動向や、勇との交友などについての多くの知見を得ている。今後の研究においては、京都での資料調査が不可欠となるが、現在出張は見合わせ、当面はこれまでの調査内容のまとめと論文化に努め、時期を待ちたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2月、3月に、富山・神奈川・京都などでの調査や研究会への出席を予定していたが、新型コロナの影響で見合わせ、出張旅費相当に繰り越し分が生じた。自粛党解除後の出張費、資料購入費として充てる予定である。
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