研究課題/領域番号 |
17K02457
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
細川 光洋 静岡県立大学, 国際関係学研究科, 教授 (60442480)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 吉井勇 / 近代短歌 / 戦中疎開日記 / 戦時資料 / 小谷契月 |
研究実績の概要 |
本研究は、吉井勇の戦中疎開日記資料を基に、後期の代表的な歌集『寒行』『流離抄』の成立背景を明らかにし、勇と京都文化人たちとの交友の文化史的意義を検証するものである。昨年度までに、戦中の日記についてはほぼ翻刻を終え、現在戦後間もない時期の京都での日記の翻刻に進んでいる。 実地調査は思うように行うことが出来なかったが、前年度までの調査などを元に、戦中の「洛東日録」の翻刻に校注・解題を附し、静岡県立大学国際関係学部紀要『国際関係・比較文化研究』第19巻第1号(2020.9)に、「吉井勇の戦中日記――『洛東日録』抄」を発表している。この他、疎開日記をもとに、地方紙「とやま文学」第39号(2021.3)の特集「越中八尾おわら風の盆をめぐって」に、「小谷契月と吉井勇」を寄稿している。また、2020年6月より、翁久允旧蔵資料の中から新たに発見された吉井勇の歌稿をもとに、高志の国文学館で特別展「翁久允と吉井勇・川田順――富山を訪れた歌人たち」を開催(~2021.6)。これに続いて、2021年6月下旬からは特別展「翁久允と没後50年 川崎順二・小谷契月」(~021.12)が開催される予定で、資料の翻刻等に協力している。 本年度は疎開日記の一覧作成と併行しながら、勇夫妻の疎開を自宅に受け入れた八尾の民謡詩人・小谷契月について、作品集の編纂を行った。契月の作品集はこれまで編まれたことがなく、民謡詩人契月の実態も不明な点が多かった。契月は疎開当時の勇を詠んだおわらや俳句、随筆も残しており、これまで分かっていなかった住居の様子も明らかになった。2021年6月に没後50年を記念して編著『小谷契月作品集』(桂書房)が刊行される。これにより、コロナ下ではあるが、研究成果の一端を地元に還元していくことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナの関係で、十分なかたちでの出張調査を行うことが出来なかった。「やや遅れている」という評価は思い通りに研究を進められなかったことの謂いでもある。その中でも、これまでの調査や翻刻をもとに、日記の記述を歌作・読書・来信などの一覧表にまとめる作業を継続している。初出誌の調査が十分に出来ていない状況であるが、戦中の歌は、戦後の歌集に採られていない歌も多く、戦時下短歌の初出情報としてまとめる意義は大きいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの調査・研究により、吉井勇の戦中疎開日記が単に文学者の一資料ではなく、地域文化史・戦時史の貴重な証言記録であることが明らかになっている。八尾町文化協会や八尾おわら資料館と協力して、疎開日記を刊行する準備を進めていきたい。 疎開日記の内容を一覧として「見える」形にすることを目指してとりまとめを行っている。戦時下の歌から、吉井勇という歌人が時局にいかに処したかも論文としてまとめたいと考えている。 引き続き京都大学人文研歴史班(高木博志教授)のメンバーとして、当時の京都文化人たちとの交友やその背景についての多くの知見を得ている。終戦後間もない時期の京都での生活には不明な点が多く、戦後の「宝青庵日記」の翻刻を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響により、京都・富山・東京などへの調査を行うことが出来なかったことが一番の理由である。吉井勇の疎開先である富山八尾で計画していた座談会・シンポジウムも開催が困難となった。令和3年度は、勇の八尾疎開の受け入れ役となった川崎順二・小谷契月両人の没後50年に当たっており、コロナの終息状況を見極めながら、この記念の年に講演などの開催を計画しているため、次年度分としての請求としている。
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