研究課題/領域番号 |
17K02459
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
奥野 久美子 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (50378494)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 近代説話 / 講談本 |
研究実績の概要 |
本研究の初年度である平成29年度は、まず歴史ものの〈近代説話〉の一つとして、木曽義仲(源義仲)の説話(伝説)に関する近代の受容について研究を行った。昨年以前に、公開講座での講義のために調査した内容をもとに発展させたものであるが、その後の調査研究でたいへん興味深い事実が判明した。 芥川龍之介がまだ府立第三中学の学生であったときに執筆した評論「義仲論」は、芥川研究のうえでは芥川文学の原点として重要視されている。その「義仲論」を、出典調査を中心に研究し、依拠した歴史テキストを詳細に確認してゆくと、芥川が「源平盛衰記」に拠ったとしている箇所が、実は近世になってから庶民向けに書き直されたテキストに拠っていることが判明した。これは木曽義仲の〈近代説話〉を考える上でも、芥川文学における近代と前近代の問題を考える上でも、たいへん興味深いことである。 この研究については既に論文化して平成29年8月に、論文集『芥川龍之介研究―台湾から世界へ』(仮題)の編集部に入稿済みであるが、出版元が国外(台湾)であることから編集作業に時間がかかっており、平成30年4月末現在、未刊である。業績としては平成30年度の業績となる予定であるが、この、木曽義仲に関する〈近代説話〉の研究と論文が、平成29年度の主な研究成果である。 そのほかに、本研究課題に関連して、本年度には、複数の事件もの説話に関する講談本を収集した。うち『探偵実話:官員小僧』については、研究機関に所蔵されている異本との本文比較を行うなどの調査をすすめ、現在も継続している。これは本研究課題申請時の平成29年度研究計画の計画どおりである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記載のとおり、本研究課題の初年度は歴史もの〈近代説話〉に関する1本の論文をまとめることができ、次の、事件もの〈近代説話〉に関する研究に移って調査をすすめているところである。 また、申請時の研究計画に記載したとおりに、初年度は今後4年間の研究の準備として、特に事件もの講談本や実録本を収集することも、目標の一つにしてきた。初年度に、全国の図書館や研究機関をさがしても1~2冊しかみつからない、あるいはどこにも所蔵登録のなかった、事件もの講談本や実録本を古書店で収集できたことは、研究成果ではないものの、今後の研究をすすめる上で欠かせない準備となった。 申請時の研究計画では、いくつかの事件もの講談本の書名をあげて、一年に1~2冊をめどに詳しい調査研究をすすめる計画であった。そのうち、先にも記述したとおり、事件もの講談本『探偵実話:官員小僧』については、古書店で収集した本と、研究機関に所蔵されている異本との本文比較を行うなどの調査をすすめてきた。調査の結果を年度内に論文などにまとめられなかったのは残念ではあったが、研究を継続しており、それは本研究課題申請時の平成29年度研究計画の計画どおりである。 以上、当初の事件もの講談本に関する研究計画を進め、研究を継続しつつ、形のある成果としては歴史ものの〈近代説話〉の研究論文(木曽義仲に関する近代説話に関する研究)をまとめることができたため、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成30年度は、前年度から継続している、事件もの講談本『探偵実話:官員小僧』の調査研究を継続する。本研究課題の二年目である平成30年度は、明治(維新)150年という記念年であるため、文学研究の世界においても、さまざまな意味で明治という時代があらためて注目されている。二年目はそのことにも関連して、明治期に刊行された講談本・実録本における〈近代説話〉の生成について調査と研究をすすめてゆく。 本研究申請時の予定では、「探偵実話」を冠する講談本や、実録を中心に、事件もの、あるいは歴史もの講談・実録本を、各研究年度に1~2点ずつを調査するほか、平成29年度に行う実態把握のための調査収集も最終年度である32年度まで続けるとしていた。平成30年度はまずこの予定に従い、上記の昨年度からの継続課題のほかに、もう1点の事件ものあるいは歴史もの講談・実録本の調査を行う。また、特に従来の研究が乏しい、事件もの講談本の収集調査も続ける。 また本研究課題の期間後半の平成31、32年度には、海外共同研究者を招き各年一度ずつ研究会を開き、前半の研究成果確認と課題検討をし、英語での研究成果発信の目処をつけることを、申請時に予定していた。平成30年度は、次年度に海外共同研究者を迎えた研究会を開くための準備もすすめねばならないため、他の研究者への打診、テーマ設定や開催方式、会場の確保、等々、研究内容・実務面の両面で、研究会の準備をすすめたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は予定していた海外での学会参加(国際芥川龍之介学会)の開催地が中国であったため、その出張費がさほどかからなかった。次年度には同学会の開催地がロシアと決まっており、本年度より倍以上の海外出張費がかかると見込まれるため、次年度に繰り越すこととした。ロシアでの学会発表が既に内定しており、その学会参加のために使用する計画である。
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