研究課題
文芸同人誌『文藝首都』についてのこれまでの研究会やシンポジウムの成果をふまえ、参加者各人の論文の作成、相互の精査を経て、成果となる論集『『文藝首都』―公器としての同人誌』を刊行した。ゲストを含めて17人の執筆者による論を収めた。この論集での成果の一点目は、文学において、書き手が同人誌での下積みを経て、文壇に見いだされるというサイクルの様相を、投稿や指導のシステムの調査・分析によって改めて明らかにしたことである。二点目は、これまで論じられることのなかった作家や作品についての具体的分析を行ったことである。テーマとしては、主催者である保高徳蔵のネットワークによる初期参加者の特徴、台湾や朝鮮といった植民地出身作家の参加の様態、林芙美子や大原富枝や早船ちよ、林京子などの女性作家の位置、執筆者の多様な職業と執筆行為との関係、戦中の国策や出版状況への雑誌の対応、戦争体験の作品化や戦後のノーマライゼーションなど、多様な観点からの論考となった。全体として、作家だけでなく読者や投稿者も含めた〈場〉を分析し、社会的構造としての文学を明らかにした点で、文学雑誌研究に新たな一視点を加えることができた。また、前年までに、実際に雑誌に参加していた作家4名から体験を聞き取り、これを文章化して収録したことは、記録としても重要であると考える。ほぼ保高徳蔵個人によって支えられた同人誌の運営状況や、支部・合評会の意義などの詳細が明らかになった。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件)
昭和文学研究
巻: 80 ページ: 2-17
東アジア文化研究
巻: 7 ページ: 15-31