研究課題/領域番号 |
17K02468
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研究機関 | 相模女子大学 |
研究代表者 |
南 明日香 相模女子大学, 学芸学部, 教授 (20329212)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | インターテクスチュアリティ / フランスの浮世絵研究 / イギリスの浮世絵研究 / 永井荷風の浮世絵研究 |
研究実績の概要 |
大英博物館と国立美術史図書館で、19世紀後半から20世紀初頭にかけての英国での浮世絵研究の状況を調査した。ことにヴィクトリア・アンド・アルバート美術館の学芸員であったエドワード・ストレンジの著作について、版を重ねるごとに増えていった情報の内容をおさえることで、浮世絵研究の深化と広がりが確認できた。 フランス国立ギメ東洋美術館図書館では、フランスでの浮世研究の19世紀末から20世紀初頭にかけての浮世絵コレクションの状況を、コレクション売り立てカタログで確認した。これによってフランス人のコレクションの実態やコレクターの好みが把握できた。調査に際しては、司書の長谷川正子氏の協力を得た。 フランス装飾芸術美術連合のアーカイヴで、1909年から1914年に開催された連続浮世絵展に関する資料を調査した。大部の図録を刊行して、その後の浮世絵研究の基礎を作った重要な展覧会であり、この調査によってフランスおよび周辺諸国での浮世絵版画研究の状況が把握できた。さらにこの展覧会と同時期に開催された、日本人による同美術館での展覧会について調査することができた。未発表書簡など多くの新資料を通じて、インタラクティヴな浮世絵への学究的なアプローチが行われていたその実態がわかった。調査に際してはアーカイヴ担当のLaure Haberchill氏の協力を得た。審美書院の装飾芸術美術館での展覧会への経緯を書簡等でたどることで、工芸品印刷技術の極北として、浮世絵版画が認められていたことがわかった。 新しい試みとして、永井荷風の『すみだ川』と先行する版画での、風景描写の比較分析を行った。先行する作品としては、歌川広重と広重に倣いつつ独自の表現を生み出した小林清親から選んだ。従来指摘のみに終わっていた荷風の作品と、浮世絵版画の共通性を実証することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は学科長の任務による多忙のために、フランスでの調査を二度に分けて行うことになった。が、結果として、フランスとイギリスでの浮世絵研究の状況を予想以上におさえることができた。ことにフランスの装飾芸術美術館での1909-1914年の浮世絵版画連続展覧会について、非公開資料も含めて調査できたのは収穫であった。但し成果発表としては、講演や二度の学会発表など口頭ではほぼ全体にわたってできたものの、論文では小島烏水について発表できなかった。もっとも上記展覧会及びその大部の目録全六巻に関して、詳細な解説を執筆することができた。これは同図録の復刊事業に伴う。またこの連続展覧会への反応として同館で開催された日本人による展覧会(審美書院と桑原羊次郎のコレクションによる)について、アーカイヴで書簡などの新資料を確認できたので、この点においては予想以上であったといえる。 さらに明治美術学会での発表を通じて、荷風や烏水も部分的に参加した大正期の新版画運動について、専門家から情報を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まずはアメリカ東海岸を中心とする浮世絵研究の実態を調査する。シカゴ美術館図書館Art Institute of Chicago Libraries 他での資料の調査が予定されている。同学芸員でもあったFrederic Gookin(1853-1936)の業績は、手つかずの領域であるので、できるだけの調査をしたい。荷風が訪れたシカゴ万博博覧会での、浮世絵も含む日本美術の受容についても調べる。またアングロサクソン系の文献を参考にした小島烏水の広重などの研究について、その情報の出典、烏水の解釈と分析の方法の解明、同時代への影響などを明らかにする。 本研究計画の当初の予定にはなかったが、桑原羊次郎の展覧会がこの秋に島根県立美術館で開催され、そのための文献の整備が進んでいることが分かった。桑原が残した資料を通して、第一次世界大戦前の西欧と北米での浮世絵研究が明らかになる部分があるので、島根大学附属図書館などに保存されている資料の調査を進めることにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
学科長の任務のために、2017年9月のフランスでの調査を途中でうち切ることになった。そのため2018年3月21日から4月2日にかけて、渡仏をして再調査を行った。この渡航の旅費が上記今年度の使用額には含まれていない。結果としては、次年度はほぼ予定通りの使用額となる。
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