研究課題/領域番号 |
17K02468
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研究機関 | 相模女子大学 |
研究代表者 |
南 明日香 相模女子大学, 学芸学部, 教授 (20329212)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 永井荷風 / ジャポニスム / 桑原羊次郎 / 審美書院 / 装飾芸術美術館 / 浮世絵 / 日本趣味 |
研究実績の概要 |
パンデミックのために、国内外での資料調査が不可能になった。また学内での仕事の急激な変化に対応する負担がありながら、手術後の体調が戻らずに終わった。ただ、これまでの研究期間中に収集していたが、未発表であったものについて、改めて発表する機会を得た。 具体的には、欧米の絵画における浮世絵の影響が認められた時期に、日本の西洋美術史関係研究者がその事実を、20世紀にはいって無視する傾向がみられた。その一方で、日本の文学研究者が気づいていたこと、ことに永井荷風の浮世絵研究の書物『江戸藝術論』が、1930年代になって再評価されて、日本のジャポニスム研究の礎を作ったことがわかった。これはジャポニスム学会創設40周年記念フォーラムで発表し、ほかの発表者の論文とともに共著で2022年に刊行される予定である。 さらにジャポニスムのフランスなどでの浮世絵評価の比較研究として、20世紀初頭のパリで、六年にわたって開催された装飾芸術美術館での浮世絵と工芸品の展覧会に注目した。三年目に、海外向け美術出版社の審美書院と日英博・ローマ万博美術委員の桑原羊次郎のコレクション展も催されて、結果として<見せたい>直筆、版画の浮世絵や名画複写の競演となった。この開催までの経緯や評判などを、パリの「装飾芸術アーカイヴ」で直筆書簡などで調査した結果を、改めて系統的に分析して論文にすることができた。 小島烏水については、ラスキンの影響が彼の浮世絵論にも反映していることがわかった。但し、これについてはまだ具体的に論文化できずに終わっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
シカゴ・インスティチュートをはじめ国内外での調査ができないために、隔靴掻痒の状況である。しかも3年で終わらせる予定を延長しているのであるから、きわめて順調とは決して言えない。 とはいえ研究機関の当初に思いのほか大量に発見された資料を基に、そしてこれまで気づかずにいた1930年代の浮世絵評価の比較研究もできたのであるから、ともかくも進めていることは確かである。ことにパリ装飾芸術美術館での連続浮世絵展は、欧米の浮世絵研究の結集であり、それに対しての日本側の反応も、背景も含めて論文化できたのであるから、一つのまとまった成果といえる。またジャポニスム学会創設40周年記念フォーラムでの発表分の活字化も決定しているので、加筆修正をして充実させることができる。
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今後の研究の推進方策 |
パンデミックと体調の両方が不確かであるので、これまでとは異なりあらかじめ移動に関する問題が解決しないことを前提として、計画を変更する。 国内でも調査が可能なテーマとして、ジョン・ラスキンの著書の小島烏水の浮世絵分析への反映について、改めて比較分析を試みる。および、2021年2月のジャポニスム学会40周年国際フォーラムの発表の原稿は活字化されるが、成果のすべてが発表可能ではないので、別途、テーマを掘り下げて論文化する予定である。さらに古書などを利用して、なるべく海外のアーカイヴや図書館などに頼らなくても済む、資料の収集を心がける。 またパリ装飾芸術美術館を中心に欧米の浮世絵研究と日本側の反応について、講演を予定している(2021年7月11日)。
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次年度使用額が生じた理由 |
パンデミックのために移動が制限されて、旅費の使用ができなかった。一方で、これまで蒐集した資料の整理と論文として執筆をするために、大きく支出をする必要がなかった。また口頭発表を三回予定していたが、そのうち二回分が中止されて大幅に計画が狂った。 2021年度も、国内外の旅費をどれほど使用ができるかは不明である。そのため、主に国内での資料の調達にかかる費用(古書を含む書籍の購入や現物貸借、資料複写等)と、小冊子の出版も含む成果の発表のための印刷費、また補助作業を必要とする場合の人件費と謝金に使用する予定である。
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