研究課題/領域番号 |
17K02469
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研究機関 | 金沢学院大学 |
研究代表者 |
秋山 稔 金沢学院大学, 文学部, 教授 (20202559)
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研究分担者 |
田中 励儀 同志社大学, 文学部, 教授 (90148619)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 逗子文庫自筆原稿目録 / 「秘妾伝」の初案 / 「化鳥」鮟鱇博士のモデル / 「ささ蟹」初出の原稿 / 「他人之妻」の全貌 / 「りんどうとなでしこ」 |
研究実績の概要 |
泉名月氏旧蔵、泉鏡花未調査資料は、現在一部を除いて泉鏡花記念館が保管している。平成29年度は、草稿の整理と分類と分析を行ない、データ入力を開始した。草稿は、発表作と未定稿に分け、発表作については年代ごとに、保存箱に収納した。書簡も保存箱に整理した。 「泉鏡花逗子文庫自筆原稿目録」が発見された。昭和42年末までに判明した草稿の目録だが、原稿の整理は一部にとどまる。「卯辰新地」、「蒟蒻本」、「古貉」については、製本された完本があった。異同の多い「りんどうとなでしこ」も含めて、分担して研究論文を作成することとした。 草稿については、A4版の封筒に作品のタイトル、初出を記載する作業を、夏までに終えた。タイトルがない場合は、内容から作品を推定した。その他に、タイトルのある断簡、記名のない断簡がある。秋から、作品ごとの整理と分析を行ない、年明けに研究協力者に依頼して、一部をデータベース化した。現在は、草稿の前後、岩波版全集本文との照合を行ない、概略を封筒の表に記載する作業を行なっている。3月までに、明治20年代が終わり、30年代前半の整理と分析の作業中である。 「秘妾伝」の初稿では、柴田勝家の二女小宰相が主人公であったこと、「化鳥」の鮟鱇博士のモデルは、貧民を給養した金沢の慈善家小野太三郎であること、「凱旋祭」はほぼ完本であること、「ささ蟹」は初出「国民之友」の原稿で校正者の姓が記載されているが、他筆であることが判明した。最大の成果は、「他人之妻」の全貌が明らかになったことである。この作品は、金沢から武生までが「怪語」「去りながら」として発表されていたが、その後の展開や結末が不明であった。結末は、春日野隧道で、盲人と主人公が美貌の人妻お秀をめぐって対峙し、盲人が自身の嘱託殺人を主人公に依頼する内容であることが明らかになった。翻刻と併せて来年度、論考を発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
未調査資料の中でも、論文作成に結び付きやすい草稿類の検証から始めた。草稿を作品発表順に年代別に分類し、整理する作業、つまり保存箱に入れ、作品ごとに封筒に入れて、初出を記入する作業、夏までに終わったことで、見通しがついた。また、完本を対象にした論文作成についても、担当を決めることができた。 さらに、全集本との比較、検証によって、草稿の意義や問題点が明らかになっている。研究代表者は、明治三十年代前半までの比較、検証を行なった。研究分担者は、大正期を中心に、全集本文との比較、検証を続けている。特に長編「りんどうとなでしこ」の比較、検証を本格的に進めている。この作品は、始め「黒髪」として発表され、のちに「黒髪」本文を取り込んで「りんどうとなでしこ」として発表したものであり、成果が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
3月に研究分担者、協力者と今後の研究について、打ち合わせを行なった。 2年目は、草稿の整理と解析を終わらせ、データベース化を図ることを目標とする。また、最終年に作成する資料目録については、論考を加えて、資料の意義を明記して研究者の便宜を図ることとした。 草稿の整理と分析については、秋山が明治時代、田中氏が大正以降を中心に担当しているが、固定されるものではない。 また、今までは、研究分担者と一緒に資料整理をして来たが、今後は、それぞれが研究協力者と連絡を取り、個別に資料整理を行なって、研究の遂行を加速することとする。また、今年度中に、各自が資料を対象とする論文を発表し、慶應義塾図書館、国会図書館等での研究も進めることとした。
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次年度使用額が生じた理由 |
直接経費の人件費・謝金を計上していたが、草稿類が多く、未定稿と発表作が未整理のままであったため、作品別に分けて封筒に入れ、明治から昭和までの発表作と未定稿とに分類したり、書簡を鏡花宛書簡と書簡下書きなどに分ける作業に時間を取られてデータベース化が年明けになったためと、2月に金沢では大雪があり、研究協力者がデータベース作成に費やす時間を積雪対策に回さざるを得ず、謝金の支払いが18960円にとどまったためである。 差引額の30544円を含めて、データベース作成と慶應義塾図書館や国会図書館への旅費等の研究費として次年度の研究に使用する。
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