研究課題/領域番号 |
17K02472
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
瀬崎 圭二 同志社大学, 文学部, 准教授 (70413284)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 「Q」 / 「家族あわせ」 / 「恐山」 / 「田園に死す」 / 「あなたは……」 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究成果として、拙論「一九六〇年代初頭における寺山修司とテレビ―政治・土俗・大衆―」(『人文学』200 2017年11月)を執筆した。この論考では、1960年代に寺山修司が脚本を担当した「Q」(1960年10月31日放送 KR)や「家族あわせ」(1961年6月5日放送 NTV)、「田園に死す」(1962年10月22日放送 NTV)などのテレビドラマを取り上げ、そのモチーフについて検討した。この時期の寺山のテレビドラマは映像が現存しておらず、いずれも脚本のみを分析対象とせざるを得ない点に限界があるのだが、脚本を精読することで、寺山のテレビドラマにおける表現が、映画脚本や詩、短歌、ラジオドラマ脚本といった他の寺山の表現と重なり合っていることを明らかにした。この時期に寺山が始めた放送業界での仕事は、寺山の表現を大衆へと開いていく契機を形作っており、寺山が後に主催する「演劇実験室・天井桟敷」で顕著になっていく土俗的な表現や〈母殺し〉というモチーフも、当時の大衆的な感性に呼応するものであることが明らかになった。寺山がテレビに期待していた偶発性や、それを誘発する質問という行為についても、寺山と谷川俊太郎氏が交わしたビデオ・レターの表現と接続して捉え直すことで新たな側面を浮かび上がらせることができた。 また、この拙論での考察をめぐって、寺山を放送業界に誘った詩人の谷川俊太郎氏にインタビューする機会に恵まれ、その内容を「谷川俊太郎氏に聞く「寺山修司とテレビ」」(『同志社国文学』87 2017年12月)として公表した。このインタビューでは、上記の拙論における様々な指摘を、自身も同時期にテレビドラマ制作に携わった谷川氏に直接問いかけ、二人が共有していたものを炙り出すことに努めた。谷川氏のテレビドラマ制作に関するインタビューも行っているが、それは未だ公表していない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
寺山修司とテレビとの関係について調査、考察を行うことは、今年度の研究計画をそのまま実行した結果である。研究計画では、その後に昭和30年代の谷川俊太郎氏とテレビとの関係について、調査、考察する予定であったが、その準備の段階で、直接谷川氏に当時のことをインタビューする発想に転じた。当初は、谷川氏にインタビューする機会を得られるかどうか分からなかったものの、谷川氏のご厚意もあり、予想以上にスムーズにインタビューが実現した。寺山とテレビとの関係について行った考察を、寺山の友人でもあった谷川氏に問いかけることができたのも、当初の計画以上の研究成果となったと言えよう。このような経緯から、谷川氏のテレビドラマ脚本と、谷川氏とテレビドラマをめぐるインタビューとを併載した書物の出版を企画するに至ったが、これについては現段階では実現の見通しが立っていない。ただし、こうした企画そのものも、当初の研究計画以上の産物であると認識している。 また、本研究は、2013年度から2016年度まで科学研究費助成事業若手研究Bとして行っていた「1960年代のテレビ文化黎明期におけるテレビドラマ制作と〈文学〉」を継続するものであるが、ある程度研究成果も蓄積されてきたために、関心が近接する他の研究者の視野にも本研究が入り始め、他の研究者が出版を企画した研究書に論文を執筆する機会にも恵まれた。その論文での調査、考察は、今年度の研究計画では予定していなかったものであり、この点においても、結果的に当初の計画以上の研究成果を生むことになった。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、2017年度に企画していた、谷川氏のテレビドラマ脚本と、谷川氏とテレビドラマをめぐるインタビューとを併載した書物の出版の可能性を引き続き模索し、既に脱稿した佐々木基一とテレビとの関係について調査、考察した論考を再度確認する。その上で、文学者が制作にかかわったテレビドラマの中でも特にインパクトの強い、三好十郎作「獣の行方」(NHK 梅本重信演出 1957年10月28日放送)や、遠藤周作作「平和屋さん」(NHK 前田達郎演出 1959年11月20日放送)、城山三郎作「汽車は夜9時に着く」(NHK 遠藤利男演出 1962年11月9日放送)、秋元松代作「海より深き かさぶた式部考」(RKB 久野浩平演出 1965年11月21日放送)といった芸術祭奨励賞、及び芸術祭賞受賞作の調査、分析を行う予定である。これらのテレビドラマを扱う上で前提となるのは、それぞれの作家のテレビに対する関心であろう。三好十郎については、「獣の行方」を中心に、三好が上演してきた演劇と、ラジオドラマ及びテレビドラマとの関係を明らかにする。遠藤周作については、「平和屋さん」を対象に、戦後における戦犯とその家族の処遇の問題について考察する。城山三郎については、「汽車は夜9時に着く」を中心に、ディスカッションドラマの方法論とその系譜を辿っていく。秋元松代については、「海より深き かさぶた式部考」を分析対象に据え、秋元の戯曲とテレビドラマ脚本との関係や、ドラマの物語内容にかかわる九州の炭坑の問題、九州の土俗性に対する秋元の視点について考察する。
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